NEW2作
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「いいなぁ。同じ一年生なのにこうも違うんだろう。」
六出納私立第二高校一年生、東原田敬二(15)と、大磯貝洋介(16)。
二人はラグビー部の合宿の練習から宿泊所へ帰るところだった。
東原田は、きわめて恵まれた体格の持ち主だった。彼は184cmの身長に
目一杯の筋肉をつけ、一年でありながらレギュラーの地位を得たのである。
一方、大磯貝は東原田より早く誕生日を迎え、かなりの筋肉をつけていた。
しかし、大磯貝と東原田には決定的な差があった。それは身長だった。
大磯貝はラグビーが好きで、中学校に引き続きラグビー部に入部したのだが、
ただでさえ大柄な部員が多い中、154cmという身長はレギュラー入りには
絶望的だった。
-ぴかっ-
すでにあたりは暗くなっていた。東原田は流れ星を見た。
その直後だった。
一瞬、あたりは昼間のような明るさになり、東原田はとっさに
目を覆った。そしてあたりを見回し、
「おい、大磯貝、大磯貝、だいじょうぶか。」
大磯貝は東原田のすぐそばに倒れていた。しかし、何事も無かったように
むっくりと起き上がった。
「なんだ。大丈夫か。びっくりさせやがって。」
「いや、流れ星が見えたから、お願いしたんだ。」
「そんな事より、早く帰るぞ。」
こうして、合宿一日目は、一応何事もなく終わった。
「おい、一年の大磯貝はどうした。」
二日目の朝がやってきた。ラグビー部の副主将が宿舎内で叫ぶ。
「あの〜。僕ならここにいますけど。」
「おい、大磯貝は一人しかいないんだ。あんな珍しい苗字のやつ、
学校でも一人しかいない。ましてや一番ちびの大磯貝だ。」
「あの〜。僕がその大磯貝ですけど。」
今度はその部屋、実は部員たちが食堂に使用しているところへ、
主将と東原田が入ってきた。主将は、
「確かに、昨日まで大磯貝には何も変わった事は無かったんだな。」
「実は、一瞬不思議な光を見たのですが、あのあとも何も様子が
変わった……。」
主将と話していた東原田の視界に、偶然大磯貝の顔が飛び込んできた。
「おい、洋介、どこへ行ってたんだ。主将も心配してたんだぞ。」
「ごめん。朝起きたら凄く気分がよくて、自主トレやっていたんです。」
すると、回りの部員たちが突然騒ぎ出した。すると副主将が、
「おい、東原田。本当に大磯貝に何も変わった事は無いのか。
よくみてみろ。」
「別に変わった事は……。結構筋肉ついたなー……って。」
「それもあるが、もっと重要な事だ。」
「重要な事って……。げ(^_^;)」
この部屋は廊下との段差が少しあり、大磯貝は段差のあるところに
たっているのかと思っていたのだ。しかし、副主将に言われ、
大磯貝のあちこちを観察し始めた。それで足元を見ると自分と同じ高さの
ところにたっていることに気が付いたのだ。そう。いつもなら頭1つ分
身長差のある大磯貝とも、ここならほぼ同じ目の高さになるのだ。
しかし、その差がかなり縮まっているのだ。副主将は、
「うーん。何らかの形で異常に圧縮されていた大磯貝の背骨の軟骨が
光による刺激で圧縮が解け、一晩で身長が急に伸びたのかな?」
すると周りからは、いや、胴体だけで無く足も伸びてる、
筋肉が急についたのもどう説明するんだ。などと部員たちが騒ぎ出した。
「まあ、大磯貝も特に異常は無いといっているしな……(^_^;)」
副主将の言葉に周りからは、いや、これだけ急成長する事自体異常なような
……と、またもや部員たちが騒ぎ出した。すると今度は首相が
構造改革についてっ……。ではなく、あまりのインパクトのあった出来事に
主将の言葉はまったく部員たちの耳に入らなかったのだ。が、そこは
主将である。彼は、
「おい、誰か測るものもってこい。」
「主将、これを。」
「おい、計量カップでどうしろと……。」
「では、これを。」
「それは分度器だ(^_^;)」
「これでどうっすか。」
「それはテスターだ。」
「あのー。これは……。」
「それは巻尺……いいじゃん。」
その日の昼過ぎ、ラグビー部のOB、霜柳原が合宿所に尋ねてきた。
出迎えたのは主将だ。彼は、
「先輩。お久しぶりです。わざわざこんなところにまで来て頂いて。」
「いや、特に言う事はないのだが、会社のラグビー部が廃部になってな。
ただの体のでかいリストラにおびえつづけるだけの社員に成り下がったなんて
主将になった後輩の前で口に出して言えやしない(T_T)」
「あの〜。全部口に出していってるんですけど(^_^;)」
「あ、そうだ。話題を変えよう。二年の部員に聞いたんだが、
一夜で急成長した部員がいたって。まさか俺みたいに2メートルを
超えたわけじゃないだろうな。」
「エえっ、先輩も一夜で伸びたんですか?」
「そうじゃなくてだな。俺くらいの背丈にまでなったかって
意味なんだよ(-_-#)」
「いや、その、冗談ですよ。確か朝測ってみたら169cmになってました。」
「全然でかくないじゃないか。」
「いや、寝る前は154cmだったんです。」
「冗談はもういい。帰る。」
「先輩。もう帰るんですか?確か泊まる予定じゃ……?とにかく
本人に会って話を聞いてあげてくださいよ。先輩ならきっと
力になれるはずです。」
「とはいってもなぁ。169cmなんて普通だろう。レギュラーじゃ
なければな。」
「おい東原田、そこにいたのか。大磯貝を呼んで来るんだ。
霜柳原先輩が相談に乗ってくれるそうだ。」
「いや、まだ相談に乗るとは……。」
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「主将から聞いていると思うが、私がOBの霜柳原だ。
ところで、君たちは仲が良いそうだが、どちらが大磯貝だ?」
「あのー。僕が大磯貝です。」
「と、言うことはおまえが東原田か。170くらいか。
その割には大きいな。」
「そんな。僕は184cmあるんですよ。」
「東原田。何をいってるんだ。大磯貝は朝身長を測ったときには169cmだと
ちゃんと主将から聞いたんだ。おまえたち二人は、同じような
身長じゃないか。」
「そういえば洋介、こころなしかまた伸びたような気がしていたが……。」
「えっ、これ以上伸びたらどうしよう。そういえば大銀杏先輩に
借りた服もきつくなってきてるし……。」
しかしここはさすがにOB、気の短い人間なら怒ってしまうところだが、
彼は冷静に考えた。
(ははーん、きっとこれは俺を担ごうとしているんだな。同じような体つきの
一年を使って、一人を急成長したといって。きつめの服まで着せやがって、
なかなかの演出だな。そうだ……。)
霜柳原は、
「大磯貝洋介といったな。いろいろ不安があるだろう。
よかったら俺の部屋に一晩一緒に泊まって良いぞ。普段いっしょにいる
仲間や先輩だったらかえって言いづらいこともあるだろう。困った事があったら
遠慮せずに相談するといい。そうだ、その服もきつそうだな。俺の着替えで
よかったら貸してやろう。」
「ありがとうございますm(__)m」
大磯貝は深深と頭を下げた。その時、
-ばりっ、びりびり-
大磯貝の着ていた服は破れ、彼は一瞬で上半身裸になった。
「どうしよう。借り物なのに。」
「仕方ないな。服の事は俺が言ってやる。そうだ。東原田も
上半身裸になれ。」
東原田は霜柳原の言うとおり服を脱いだ。すると、二人の体格の差は
歴然だった。東原田のとなりが同じ身長の普通の体格の男なら、
かなりのマッチョマンだ。が、となりにいる大磯貝と比べると、どうしても
貧弱に見えてしまう。それほどまでに大磯貝の筋肉は発達し捲くって
いたのだった。霜柳原は、
「いやー。一年でこれだけの体つきだと、将来が楽しみだな。どこまで伸びたか
測ってやろう。」
「凄い雨だな。」
その夜、昼間の天気からは想像できないほどの雨が降っていた。
部員たちは練習できずに、何人かが広い部屋に集まり話していた。
「大磯貝のやつ、またでかくなっていたそうだ。昼過ぎにOBの霜柳原先輩が
測ったら186cmだと。」
「このペースででかくなりつづけたら、どうなるんだ?」
「大変だ。」
「大銀杏先輩。先輩の服も破られたって……。」
「そうじゃない。」
「逆に反動で縮んだとか。」
「違う。ここに来るまでの橋が、川の増水で流された。」
「なんだって。」
「まじかよ〜。」
「ここに向かっていた顧問の三田口が携帯で主将に連絡してきたんだ。
とりあえず、合宿間の食料は、なんとか確保してある。」
「合宿が終わるころには、帰れるんですか?」
「多分、大丈夫だと……。」
「ほんとうですか?」
-ばきっ、どったーん-
「何だ今の音。」
「OBの霜柳原先輩が泊まっている部屋だ。」
その音を聞いた何人もの部員が、部屋の前に集まってきた。
部屋のドアが開け放たれ、そこには大磯貝が頭を抱えて、小さく
うずくまっていた。
「なんだ。お前か。でかくなっているだけでも大変なのに、これ以上
騒ぎを起こすなよ。」
部員の一人が、大磯貝に話し掛けた。大磯貝は、
「ごめん。いててて……。」
そう言って大磯貝はゆっくり立ち上がった。それを見た部員たちは驚いた。
そこにはさらに大きくなっていた大磯貝がいたのだ。これだ大きくなれば、
入り口の上部に頭をぶつけても仕方がないだろう。
「あ〜、よく寝た。どうしたんだ。おい、俺よりでかいやつなんてうちの部に
いたか?」
部屋の奥から霜柳原が出てきた。その声に大磯貝は振り向く。
それを見た霜柳原は、思い切りびっくりした。彼ははなっから大磯貝が
少しずつ大きくなっているということを信じていなかった。
その大磯貝がいつのまにか自分と同じぐらいになっているのだ。
身長も自ら測っている。霜柳原はこの事実を信じないわけには
行かなくなってしまったのだ。その時大磯貝は霜柳原に話し掛けた。
「あの〜、また大きくなってしまったみたいですけど。」
「そ、そうだな。別に気にしなくていいぞ。よくある事だから。多分。」
「そうですね。はじめは心配だったけど、気にならなくなっちゃいました。
そういうものなんだと思えば、気が楽になるものですね。」
「いや、よかったな。悪いが失礼するよ。仕事があるんだ。」
「お世話になりました。お仕事がんばってください。」
「それがそうもいかないんです。実は……。」
二人の会話をそばで聞いていた部員の一人が、橋が落ちてしまった
事を説明した。霜柳原は、
「いや〜、まいったな。自然の力には勝てないね。」
「すばらしいお言葉、さすがOBですね。それじゃ僕たちは失礼します。」
部屋には大磯貝と霜柳原の二人だけが残された。霜柳原は、
「大磯貝君、悪いがこの部屋にはベッドが1つしかないんだ。そうだ。
寝る前にゲームでもしないか。勝ったほうがベッドで寝るんだ。」
「面白そうですね。やりましょう。」
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-めりっ、めりっ、みしっ-
霜柳原は怪しげな音で夜中に目を覚ました。しかし、疲れていたせいか、
また寝てしまったのだった。そして、合宿三日目の朝がやってきた。
-ばきっ、どったーん-
「何だ今の音。」
「またOBの霜柳原先輩が泊まっている部屋だ。」
その音を聞いた何人もの部員が、また部屋の前に集まってきた。
扉のところで、頭を抱えてうずくまっていたのは前回の大磯貝ではなく
霜柳原だった。部員の一人が話し掛ける。
「どうしたんですか?」
「べ、ベッドが潰れた。」
「落ち着いてください。」
「これが、落ち着いていられるか。寝る前に測ったときは205cmだったのが、
さっき測ったら225cmになっていたんだ。」
「ふわぁ。おはようございます。裸で寝るのも気持ち良いですね。」
うわさの本人、大磯貝が目をこすりながら起きてきた。
立ち上がった大磯貝の顔は部屋の外にいる部員たちからは開いた入り口の
上に隠れて見えない。大磯貝は部内でここ数年来最も大きかったOB霜柳原より
一回り大きいのだ。だが、伸びたのは身長だけではない。身長に気をとられ
多くの部員たちが横の発達はあまり気にしていなかった。が、
大磯貝は身長の縦にくわえ筋肉の横も発達していた。すでに大磯貝の腕は
周りの部員たちの太ももくらいになっていたのだ。
大磯貝は180クラスの大柄な部員たちより頭1つ余裕で飛び出し、
広い肩幅であることもわかるのだった。
「主将すみません。付き合わせてしまって。」
「東原田、大磯貝が急成長する前に謎の光を見たのはこのあたりなのか。」
「はい。」
主将と東原田の二人は、巨大化しつづける大磯貝を何とかできないかと
謎の光を見たあたりに手がかりを探しに来たのだった。
「まさか、これ以上成長のペースが伸びるということはないだろうな……。」
「いや、それも心配だが、このまま孤立状態だと、食料も……。」
「探せばあるもんだな。」
「おかしいな。こんなところに食べ物をおいてあったかな?」
部員たちが話しているところに、主将と東原田の二人がやってきた。
「主将、東原田とどこへ行っていたんですか?もう昼過ぎですよ。」
主将は、
「雨風が収まったんで東原田と大磯貝の急成長の手がかりを探しに
行ってきたんだ。それらしき光が見えたんだが、こんなものしか
見つからなかったんだ。」
主将は手の中に持っていたものを見せた。それは☆の形をした
プラスチック製の物体で、その中には四角い液晶画面と、
いくつかのボタンが付いていた。
「主将、携帯型の液晶ゲームですか?」
主将は、
「多分近くにキャンプに来た子供が落としたんじゃないか。
雨にぬれて壊れたんだろう。表示がへんな記号しか出ていないんだ。
それより大磯貝はどうしている?」
部員の一人は、
「朝起きてきたんですが、また寝て昼食も食べてません。」
東原田は、
「体が大きくなった分、負担が大きくなったのかもしれない。
見に行ってきます。」
主将は、
「いっしょに行こう。」
二人は大磯貝の寝ている部屋に向かった。ちなみにOB霜柳原はその部屋から
とっくに避難して、副主将の泊まっている部屋に居るのだった。
「大磯貝、はいるぞ。東原田も……よく寝ているようだな。」
主将は大磯貝が寝ている事を確認すると、東原田を部屋に入れた。
その部屋にはベッドを形作っていたと思われるたくさんの木片と、
素っ裸で、シーツ一枚をかぶって大の字に寝ている大磯貝がいた。
(でかくなったな……)
二人は、恐ろしく大きくなった大磯貝を見下ろしながら言った。
両腕の太さは、二人の太ももほどになっていた。主将は、
「なぜもってきたのかよくわからんが、霜柳原先輩が持ってきた巻尺が有る。
ちょっと測ってみないか。立ち上がったら測れそうもないからな。」
足の先からへその辺りまで巻尺を伸ばし、そこから曲げ、頭の先までの
長さを測る。あまり正確ではないかも知れないが、大体の数値は出るだろう。
「主将、に……259cm有ります。」
「腕回りも測ってみよう。手伝ってくれ。」
二人がかりで丸太のような腕を持ち上げる。
「これは腕というより、胴体に近いな。いや、それ以上かも。」
その超太い腕が、突然動き始めた。腕の上にいた東原田は
軽々と持ち上げられ、大磯貝の胴体の上に落とされた。
「うわっ」
さらに東原田に大磯貝の超太い両腕が襲う。東原田は大磯貝に
ベアハッグをかけられてしまったのだ。
「く……苦しい……」
東原田は自分自身を締め付ける太い両腕から必死で逃れようとするが、
まったく動く気配もない。主将も力いっぱいその腕を引き剥がそうとするが、
それでもさらに大磯貝の両腕は、東原田を締め付けていく。
東原田がギブアップ寸前になったとき、大磯貝が目を覚ました。
「う……ん?なんで東原田を抱いてるの?そんな趣味はないのに。」
東原田は返答する気力もなく、その場に倒れこんだ。そこへOB霜柳原が
やってきた。彼は、
「大磯貝、お前の部屋を見つけてきてやったぞ。すぐに来い。」
「今すぐにですか?」
大磯貝は立ち上がった。その時、
-どーん、バリバリ-
彼の頭は天井をぶち破り、彼の首から下だけが部屋の中にあった。
そこまで巨大化した彼の移動は大変だった。何度も天井の照明に頭をぶつけ、
壊れたガラス片で大慌てになったり、腰をかがめて低くなったところを通る
のに失敗し、倒れこんだところに下敷きになった部員が居たりと
大騒ぎだった。
「ここだ。」
霜柳原が大磯貝を連れてきたのは体育館のようなところだった。
「こんな設備、あったか……?」
「まったく、自分たちの合宿しているところの施設ぐらい把握して置けよ。
ここなら、天気が悪くても何かの練習はできるだろ。」
「どうやって、ここを見つけたんですか?」
主将が聞くと、霜柳原は、
「いや、馬鹿でかい大磯貝がしばらく生活できるようなスペースがないかと
探していたら突然雷がなってな。いや、雷と言ってもすごく光った割には
音はしなかっただけどな。ふと外を見るとこの体育館があったんだ。」
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「主将、に……298cm有ります。」
大磯貝の巨大化が顕著になった衝撃の合宿三日目が終わろうとしている時、
部員全員に更なる衝撃が襲った。すでにこの大きさでは立った状態で
身長を測る事はきわめて困難である。大磯貝に横になってもらい
巻尺で測るしか方法はなかった。
「洋介、腕を上げてくれ。」
大磯貝洋介と仲がよかった、東原田が腕に巻尺を巻きつける。
主将、副主将、OB霜柳原が見守っている中、東原田が数値を読み上げた。
「83cmです。」
周りの部員たちが騒ぎ始める。大磯貝の巨大でマッチョな体は
180前後の大柄な部員たちが取り囲んでも、分厚い胸板から上が見えていた。
霜柳原が大磯貝に話し掛ける。
「まったく、こんなにでかくなりやがって。飯もよく食うように
なっただろ。」
「あ……そういえば……。」
さらに霜柳原が大磯貝に話し掛ける。
「まったく、何も考えず体だけ大きくなりやがって。
みんなの迷惑も考えろ。」
「確かにそうかも……。でもよく考えたら、食べる量は変わってないことに
気が付いたんだ。」
「でかくなった分、同じように食ってたら量が増えたのに
気が付かないのだろうな。」
「いや、同じ容器で同じ量をいつものように食べてた。」
確かに大きくなった分食べれば大変な量になるだろう。
それだけ猛烈に食べれば思い切り目立つはずなのだが、体の大きさばかりに
目をとられ、誰もその事実に気が付かなかったのだった。
部員の一人が、
「もしかして、でかくなっているように見えているだけなんじゃ……。」
更に別の部員が、
「よしっ、殴って見ようぜ。」
主将や東原田がとめるのも聞かず、別の部員が大磯貝に殴りかかった。
しかも、殴った場所が悪かった。またぐらを殴られた大磯貝は、
「痛いじゃないか!!」
大磯貝は普通に突き飛ばしたつもりだったが、相手は打ち出された
砲弾のように放物線を描き、床に激突し、伸びてしまった。
周りの部員たちは、巨体から生み出されるパワーに、恐怖したのだった。
四日目の朝。主将とOB霜柳原が巨大化しつづけているであろう
大磯貝の居る体育館へ向かっていた。主将は、
「くじ引きとはいえ、様子を見るため、副主将と東原田に大磯貝と
同じところで寝るよう言ったが、心配だ。大磯貝が寝返り打った
下敷きにでもなっていないだろうな……。」
「まったく、大磯貝のやつどこまで大きくなるんだ。誰か教えてくれ。」
突然、強い光が二人を襲った。霜柳原は、
「あの体育館を見つける前に、こんな光を見たんだ。」
「なんか光ってるぞ。」
主将が指差す先には、拾ってきたゲームらしき物体の液晶画面の
バックライトが点滅していた。画面には、
願望調査装置 UMB タイプS-1997
ID:UMB-S1997-0987-7007 お困りの時には 0120-XXX-XXX
大ちゃん神殿 UMB対策室まで
「先輩、電話してみませんか。」
霜柳原は携帯を取り出し、
「確かここは圏外……あ、アンテナ三本立ってる……なぜだ?とにかく
かけて見るか。か……かかった。」
「はい、こちら大ちゃん神殿
UMB対策室です。」
電話の向こうから、若い女性の声がした。
「お、おい……。」
霜柳原は言葉に詰まった。
「まず、装置のIDをおっしゃってください。」
「こ、これか。UMB-S1997-0987-7007」
「はい、確認しました。装置の記録にこちらから
アクセスしたところ、正常に作動しているようですが、何かお困りのことが
ありませんか?」
「何が正常だ。ここの部員がどんどんでかくなっているんだ。
なんとかしてくれ。」
「落ち着いて、詳しい事を報告してください。」
興奮気味のOB霜柳原の横から主将が、
「先輩、ちょっと失礼します。代わります。私はここで合宿している
ラグビー部の主将です。実は二、三日前に部員の大磯貝が、
不思議な光を見た後に、日を追うごとにどんどん大きくなって、
昨夜は身長が三メートル近くにもなってしまったんです。」
「光ですね。この装置は、とある研究機関が
願望を調査するために設置したもので、願い事をかなえる働きをします。
願い事が受け付けられると、UMBのSタイプは強い光を発するのです。」
「だ、だったらその願い事をなかったことに出来ないのか。」
霜柳原が言う。
「大変申し上げにくいのですが、一度受け付けられた
願い事は、取り消す事が出来ません。」
「それじゃあ、大磯貝はどうなるんだ。」
「とにかく、そちらへ向かいます。電話を切らないで
しばらくお待ちください。」
それを聞いた主将は、
「どうやってくるつもりなんだろう。ここへ来る唯一の橋は、
復旧していないし、風も強いからヘリも近づけないようだし……。」
「お待たせしました。」
先ほどの声が電話からもだが、近くから聞こえているような気がした
二人は、何気なく後ろを振り向いた。そこには見たこともない女性が
立っていた。女性というより少女というか。どちらかというと彼女は童顔で、
やや小柄だった。髪の毛は青とも緑ともいえない不思議な色をして、
その髪を両側で結んでいた。
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「343cmです。」
寝転んだ大磯貝を巻尺で測った東原田が副主将に報告した。
「凄いなー。腕周りやウエストとかも測ってよ。」
「おい、大磯貝。こんなでかくなってまだでかくなりたいのかよ。」
「東原田。測ってやれ。とりあえず腕から。」
「うで回りは……102cmです(^_^;)」
「後は自分がやるから。」
東原田の頭上から、大磯貝の巨大な手が下りてきた。彼に巻尺を渡そうと、
東原田は巻尺を持った両手を、背伸びして差し出した。
「うわっ」
大磯貝は巻尺どころか、東原田の両手もいっしょにつかみ東原田を
片腕で軽々と持ち上げた。東原田は、
「こら、何するんだ。やめろ。」
大磯貝は、
「うわー。東原田君軽くなったねー(^^)」
そう言って片手で軽々と持ち上げた東原田を片手でぶらぶら揺らした。
「何やってるんだ、早く降ろせ。」
床は東原田の一メートルくらい下にあった。東原田は両腕に力をこめ、
大磯貝から逃れようとしたが、彼の握力は東原田の力ではどうにも
ならなかった。大磯貝本人にとってはふざけているつもりなのだろう。
彼が本気を出せば、東原田の両手首の骨を握りつぶし、粉砕する事も
出来たのだから。その時、大磯貝の後から女性の声がした。
「あなたが、大磯貝さんですね。」
「ちょっと君誰?どうやってここに来たの?」
大磯貝は女性に質問した。その時、大磯貝の握力が弱まり、
東原田は一メートルほど落下し、尻もちをついた。東原田も、
「いたたた、ところで本当にどうやってきたんです?
それにうちの学校の生徒なんですか?」
女性……彼女は主将とOB霜柳原が見た女性だった。
そばには、主将とOB霜柳原も居た。主将は、
「今日から、合宿が終わるまでの間、臨時マネージャーになった
ハンドルネーム白銀魔神だ。」
「んで、その白銀魔神はどこからきたんです?」
東原田が聞くと、霜柳原は、
「そんな細かい事は、大磯貝がでかくなったことに比べたら、
些細な事だろう。」
「そうかぁー、なるほど。」
最初に納得したのは、大磯貝本人だった。
「ここか、やっとたどり着いた。」
「ここで、ラグビー部の合宿をしてるのか?」
その日の昼過ぎ、何人もの若い男たちが、合宿所にやってきた。
出迎えたのは、394cmにもなった大磯貝だった。突然の巨人の
出現に男たちはびびってしまった。その後に大磯貝の足の陰から現れたのは、
主将と白銀魔神だった。白銀魔神は、主将に、
「この人たちが近くに合宿している空手部の部員たちですか?」
「訪問者」の中の一人が、
「そうだ。こんなでかい部員、いつの間に入れたんだ。」
更に別の一人が、
「食料がなくなったから、分けてもらいに来たんだ。なかったら代わりに
でかい部員を連れて行くぞ。そのマネージャーらしい子でもいい。」
「滅茶苦茶な事を言ってますね。」
白銀魔神が言う。空手部員たちは、
「こっちは腹が減って気がたってるんだ。えーイ、やっちまえ〜。」
半ば強引に、空手部員たちは自分たちの身長の倍以上もある
巨人に立ち向かっていった。
「勝ち目は無いと思いますよ。」
白銀魔神が言う。主将も、
「そうだな。」
しかし、二人の予想に反して、空手部員たちは善戦していた。
一斉に弁慶の泣き所、すなわちむこうずねを攻撃し始めたのだ。
「いてっ、なにすんだ。やめろ。」
大磯貝は思わず叫んだ。
「そのままやっちまえ〜、このでかいのを降参させて空手部員にしたら、
こいつを使って、食料を強奪するのだ〜。」
「何訳のわからないこと言ってるんだ〜。」
大磯貝は怒った。空手部員たちの上から、巨大な手が降りて来た。
大磯貝は両手で二人の男の頭をがっちりつかみ。持ち上げた。
「うわーっ」
二人は空高く放り投げられた。落下地点にいた残りの
空手部員たちの上に落下し、空手部員たちは全滅。全員が気絶して
しまったのだった。白銀魔神は、
「こんな騒ぎはごめんですね。空手部の合宿所にこの人たちと
食料を届けておきます。ところで、後のほうになにか
落ちているみたいですけど。」
のびてしまった空手部員たち以外の大磯貝を含む回りの全員が
向こうを向いた。
「すみません。見間違いのようです。」
全員が元のほうをむくと、伸びた空手部員たちの姿は消えていた。
「四日目もまもなく終わりですね。大磯貝さんを測って
見ましょうか。」
ラグビー部員全員が見守る中、横になった大磯貝に白銀魔神が
巻尺を当てる。
「身長は……453cm。」
周りからどよめきがおこる。
「首周り129cm、うで回り135cm、胸囲332cm、ウェスト218cm、太もも205cm、
体重は1961kgです。身長は8時間に15.00パーセントずつ、
体重は52.09パーセントずつ増加しつづけています。何か質問は?」
「あの〜、いつまで彼は大きくなるのでしょうか?」
部員の一人が聞く、白銀魔神は、
「あ、それはですね……。」
すると、横になっていた大磯貝が上半身を起こし、白銀魔神の言葉を
さえぎるように言った。
「僕ならいいよ。どんどん大きくなっていくのが楽しいんだ。
この間ずっと大きくなりつづけて居たいんだ。」
大磯貝の巨体を前にしたみんなは、誰もその事に文句を言う事が
出来なかった。
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その夜、ラグビー部の合宿所に近づく影があった。
「なんとかあのでかいやつを部員にしたい。昼は失敗したが
今度の作戦は完璧だ。寝静まったのを見計らい、
枕もとで空手部に入る事をささやきつづければ、潜在意識にその行動が
インプットされるのだ。」
そう、昼間の空手部員たちだ。熟睡した大磯貝の周りには
誰もいなかった。じつは大磯貝は部員たちともめていた、
しかしこれ以上大磯貝を怒らせるとまずいと感じたラグビー部員たちは
大磯貝の元を離れていたのだった。
空手部員たちは、カギがかかっていなかった事もあり、
大磯貝の枕もとにたどり着いた。その中の一人が、
「おーい、そうかい、お前は空手部に入りたくな〜る。」
「か、ら、て、ぶ、に、は……。」
「お、いい家事だー。いや、いい感じだ〜、その調子だ。」
部員の一人が、大磯貝に近づいていった。そのときである。
「ちょっと、誰だよ。上に乗るな。」
「違う、腕、腕……。」
部員の上には、彼の胴体より太い大磯貝の腕が乗っていたのだ。
巨大な手足を伸ばし、大の字になって寝ている大磯貝。
一人の空手部員が、その下敷きになっている。
「重い!誰かどけろ!」
巨大な丸太のような腕を、空手部員達は協力して持ち上げ、
下敷きになってしまった部員をなんとか救出する事が出来た。
「ふう……助かった。」
大磯貝が、再び寝ぼけて腕を動かした。今度は先ほど部員を
救出するために腕をどけようとした部員たちの何人かはその上に
乗っていた。
「うわあっ!!」
突然の出来事に、バランスを崩した彼らは
軽々とその腕に持ち上げられ、大磯貝の巨体の上に
落とされた。その上から超太い大磯貝の腕が空手部員を超分厚い大磯貝の
胸板の上に押し付けた。強大な筋肉の固まりに、両側からはさみつけられた
空手部員が痛さのあまり、叫び声を上げた。周りの部員たちはその腕を
どけようと周りから駆け寄った。しかし足のほうに居たもう一人の部員が
さらに大きい筋肉の塊である両側の太ももにはさみつけられたのだ。
「苦しい!助けてくれ!」
「なんて力だ。まったく動かないぞ。」
「うぎゃーっ」
「おはようございます。」
五日目の朝、主将をはじめ、ラグビー部の面々が、大磯貝のところへ行くと、
さらに大きくなっていた大磯貝と、白銀魔神が居た。白銀魔神は、
「計測なら、先ほど済ませました。身長は521cm、首周り148cm、
うで回り155cm、胸囲382cm、ウェスト251cm、太もも236cm、
体重は2982kgです。」
「ところで、昨夜何か変わったことはなかったか。大磯貝がでかくなった
以外に。」
主将が言うと白銀魔神は、
「有りました。」
「有りましたって、冷静に言うな冷静に(-_-#)」
OB霜柳原が怒っていう。白銀魔神は、
「安心してください。すでに適切な処置は済ませました。」
「まあ、洋介(大磯貝)も無事みたいだし……。
とりあえず何があったんだ。」
東原田が言うと白銀魔神は、
「昨日の空手部の部員たちが性懲りもなくやってきて寝ぼけた大磯貝さんに
ぼろぼろにされていたのを治療して、元の場所に戻しておきました。」
「そういえば昨夜陶芸教室に参加して、何度やってもうまくいかないから
頭にきちゃって片っ端から壊していく夢をみた……。」
大磯貝が言うと、主将が、
「うーむ、白銀魔神がいなかったら、そこら辺に空手部員たちの死体が
散乱して居たかも……(^_^;)」
「それより皆さん、温泉にでも入りませんか?大磯貝さんも一緒に。」
部員たちがきょとんとしていると霜柳原が、
「この辺に温泉なんてないはずだが。」
白銀魔神は、
「こんな状況下ではそんな些細なことは気にすることはありませんよ。」
白銀魔神の案内で部員たちは外へ出た。外は昨日までの天気がうそのように
晴れ渡っていた。そのとき東原田は、
「そうだ、洋介はどうやって出るんだ。もう入ってきた出入り口も
小さいだろう。」
「僕ならもう出てるよ。」
東原田をはじめとする部員たちは上からの大磯貝の声にびっくりした。
主将が、
「どうやって出てきたんだ?もしかして壁を壊したのか?」
「いや、知らないうちに出入り口が出来ていたんだ。」
大磯貝が指差すほうの壁には、いつのまにか大きなシャッターが
出来ていた。
「何度も失敗しやがって、よく帰ってこれたな。」
「もうだめだ〜、と思った後、気が付いたら戻って
きてたんです〜(T_T)」
そのころ、少し離れた空手部の合宿所では、空手部主将が部員たちを
しかりつけていた。
「どうしたんだ?」
そこへ一人の体格のいい男がやってきた。空手部主将は、
「いや先輩、大した事はないんですけど……。」
この男、空手部OBの沢口火という。ちなみにラグビー部OB霜柳原と
同期だったりする。沢口火は、
「後輩の相談に乗るのは先輩の勤めだからな。何でも言ってみろ。」
「いや、実はラグビー部から引き抜きたい部員がいるのですが……。」
「どんなやつだ?」
「大磯貝というやたらと体のでかいやつです。2m、3m、もしかすると5m
以上かもしれません。」
「そんなでかいやつがいるか。もしいたとしてもK−1にあこがれ、
日々トレーニングを重ね、その結果を見せるために彼女のところへ行ったら
筋肉が気持ち悪いと振られたこの俺がすぐにでもと言いたいところだが、
今やってるゲームがクリアできたら連れてきてやる。」
「お前、温泉好きだな。」
その日の昼過ぎ、東原田は首が痛くなるほど大きくなった大磯貝を
見上げながら話していた。大磯貝は、
「お風呂に入るのは久しぶりだから。一緒に入る?それにさっきから
体がかゆいんだ。」
「失礼しました。実は大磯貝さんの各部を計測してました。」
大磯貝の巨体の後ろから白銀魔神が現れた。
「何もこんなことしてまで測る事はないだろう。」
東原田が言うと白銀魔神は、
「私もいろいろ忙しいですから。ちなみに結果は、身長599cm、首周り170cm、
うで回り178cm、胸囲439cm、ウェスト289cm、太もも271cm、
体重は4534kgです。結果はこの紙にメモしてますから、後で主将に渡しといて
ください。」
白銀魔神はそう言うと二人がちょっと目を離したすきに姿を
消してしまった。東原田は、
「忙しい人だな。主将のところへ行くから、一人で行っといて。」
大磯貝は、
「わかった。」
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「こんなところに露天風呂があったのか。」
空手部OB沢口火は、空手部員たちと大磯貝の入っている露天風呂へ
やってきていた。湯気でよく見えないが、誰かが一人で入っているのかだけは
見ることが出来た。
「×××××、××××××〜×××。」
その中から、なにやら歌う声が聞こえてきた。沢口火は、
「へたくそなうただなー。誰だ?」
「あの声は間違いなく大磯貝です。」
それを聞いた沢口火は、
「こんなところに一人でいるとは運の悪いやつ、ちょいと一人で
やっつけてくるから、見てなさい。」
「あの〜。大丈夫ですか?」
「いくらでかいといってもさっきも言ったが3m4mものでかいやつが
いるわけないしな。」
「いや、ほんとにそれ以上でかいんですけど(^_^;)」
「まったく、冗談好きなのは変わっていないな。自分が新入部員だったころは
よくからかわれたものだった。」
そう言って沢口火は、湯気の中に消えていった。
一人露天風呂に入っていた大磯貝は、誰かが一人で入ってくるのを
感じた。大磯貝は、
「あれ、(東原田)敬二〜、もどってきたの?やっぱり露天風呂は気持ち
いいよね。」
(ふっふっふ、まったく油断してすきだらけだ。こんなやつ楽勝だ。
何でこんなのに束になってかかってやられるなんて、うちの後輩たちも
弱くなったなー。OBとして後で気合をいれてやらんといかんな。)
沢口火は、そう思いながらしっかり自分も露天風呂でさっぱりしようと
服を脱いで大磯貝のいるところへ近づいていった。そのとき、
-ばしゃ〜ん-
「まったくどじだなぁ。そこ深くなっているからね。」
その音を聞いた大磯貝は言った。そう、この露天風呂は大磯貝のサイズに
合わせ、都合よく深くなっているのだった。そんな事を知らない沢口火は、
その中にはまってしまったのだった。次の瞬間、溺れかけた沢口火は、
自分の両側から、何か大きなものが自分をはさみつけたのを感じた。
(わっ、何なんだこれ?)
沢口火は、その「何か」から逃げようとしたが、まったく動く気配は
無かった。その直後、彼の体は大きく持ち上げられた。
沢口火は思わず大声を上げた。
「うわああああっ」
「敬二〜、そんなに君が怖がりだったって思わなかった。」
「誰が怖がりだって?」
そこへ戻ってきた東原田の声がした。すると大磯貝は、
「今戻ってきたのが敬二だとすると、僕の今目の前にいる敬二は
敬二じゃないの?」
「何を言っているんだ。誰かを俺と間違えてるんじゃないか?」
本物の東原田は向こうから話し掛けてくる。
「ばかいうなー、ぼくがほんとーのひがしはらだだよーん。」
パニックになった沢口火は、わけもわからず意味の無いへたくそな
物まねをやった。
「ひどい、誰か知らないけど東原田の振りして僕に近づいて
何をしようとしていたんだ。」
東原田と勘違いしたのは大磯貝本人のミスなのに、彼はそのまま
怒りモードに突入してしまった。
「だからぁ〜。ぼくがねぇ〜。ほんとうはおおいそがいだぴょん。」
沢口火はわけのわからないことを口走る。大磯貝は、
「大磯貝は僕だ。こんな見え透いたうそをつくなんて。」
大磯貝の怒りはますます高まっていった。
「あんまり怒りに任せて行動しないでくださいね。大磯貝さん、
今から計測します。身長689cm、首周り196cm、うで回り205cm、
胸囲505cm、ウェスト332cm、太もも312cm、体重は6896kgです。」
計測のため横になっていた大磯貝は起き上がり、
「うわー、もうすぐ7メートルの大台を超えるね。」
五日目の夜、立ち上がった大磯貝の巨大さに、ラグビー部全員が
恐怖した。この巨人を怒らせれば、ただでは済まないと言う言葉では
表現できないくらいの惨事が待っているかもしれないのだ。
そのとき、巨人大磯貝は部員たちを見下ろしながら、
「ねえみんな。僕のことどう思う?」
そのとき、ラグビー部員たちの恐怖は頂点に達した。
返答しだいでは、三時のあなたではなく、惨事が待っているかも
しれないのだ。ラグビー部員たちの大半は、大磯貝の巨大化が
進むに連れ、本人が切れやすくなっていることを感じていた。
その心配は、その日の昼の「真昼の露天風呂、空手部OB沢口火
湯煙ぶっ飛ばし事件」で現実のものとなっていたのだ。
それから何日かが過ぎた。大磯貝の巨大化はとどまるところを
知らなかった。だがこの異常な日々も全員がもう慣れてしまった。
そして、長い合宿の予定も最終日が近づいてきた。しかし誰も
気がつかなかった。大磯貝が山を降りたら大変な騒ぎになることを……。
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