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第681話

部長が、
「石本! 協力してグーアを引き上げるんだ。」
石本は命令どおりグーアを引き上げようとしたが、
グーアの体がザーツの唾液まみれになって滑ってうまくいかない。
「だめだよー。 ぬるぬるして引き上げられないよー。」
しばらくして、ザーツの口がゆっくり閉じ始めた。
口を開け続けるのに疲れてきたのだ。
部長がそれに気づき、
「おい石本、早くしろ! 潰されるぞ!」
石本は、
「そんなこと言ったって無理だよー。」
部長が、
「そうだ、ロープだ。 ロープを出してくれ。」
するとロープが現れた。
だが、部長たちの数倍太い巨大なロープだった。
つまり、ザーツのサイズのロープだった。
部長が、
「こんなの使えないだろ! どうすればいいんだ。」
すると大ちゃんが、
「糸を出してー!」
と言うと部長たちにとってはロープが出てきた。
「やっぱりね。 これなら使えるよ。」
部長は、
「今の俺たちにとっちゃ、糸がロープかよ・・。
 まぁいい、石本これを使え!」
部長は石本のほうに糸を投げた。
受け取った石本は、急いでグーアの方に糸をたらした。
「これにつかまって!」 

第682話

「わかった。」
 グーアは、ロープ(実は糸だが)をしっかりつかんだ。
「うんしょ、うんしょ……。」
 石本たちはなんとかグーアを引き上げた。

-カッチーン-

 その直後、ザーツの口が、完全に閉じた。
「ああ、危なかった……。」
 石本の分身たちは言った。グーアは、
「それはこっちのせりふだ。」
「歯磨きするだけでも命がけだな。」
 部長が言った。


 なんとか部長たちは、歯磨きを終了させた。ダイちゃんは、
「やれやれ、やっと終わった。次は何をやらされるんだ?」
「次は食事だよ。でも食事の間は特にやることはないから休んでいて
 いいよ。」
「歯磨きでかなり疲れましたね。今のうちにゆっくり休んでおき
 ましょう。」
 ブギヒアが言った。すると壁からとてつもなく巨大な何かがせり出して
来た。部長が、
「なんだあれは!!」
 ザーツは、
「あれはテーブルだよ。あの上に食事が準備されているんだ。」
 部長たちから見ればグラウンドよりも広そうなテーブルが現れ、
その上にはおいしそうな料理が準備されていた。そのにおいは
部長たちの所にまで届いた。石本たちは、
「ああ、おいしそうだなぁ。」
 部長は、
「だめだぞ。」
「まだ何も言ってないよ。」
 するとザーツは、
「いいよ。」
「いただきまーす。」
 石本たちはスープの入った皿に駆け寄り、次々と飛び込んだ。もちろん
そんなことをすれば石本たちは当然……
「わぁぁぁぁっ!」
「あちちちっ!!」
 ダイちゃんが言った。
「まったく、何をやってるんだよ。」
 大ちゃんが、
「でも早く助けないと……。」 

第683話

するとザーツが、
「大丈夫だよ。 僕がスプーンですくって助けてあげる。」
そう言うと、巨大なスプーンで石本たちがいるスープをすくいはじめた。
が、石本をすくったスプーンを顔の前で止めた。
「なんだかこうして見てると、スープの具に見えてくるね。」
スプーンの中の石本は、
「ちょ、ちょっと冗談言ってないで早くおろしてよ。」
でもザーツは、
「僕に出される料理は、ちゃんと栄養を計算されたものなんだ。
 だからなかなかこんな脂がのった肉は食べられないんだ。」
「な、何言ってるの。 僕の肉は筋肉ばっかりでかたいよ。」
「いや、まん丸でふっくらでぶよぶよで今にも脂身の肉汁がでてきそう・・・」
「そんなこと・・・ない・・・。 まさか僕を食べる気じゃ・・」
「いただきます。」
ザーツはゆっくり石本とスープの入ったスプーンを口に近づけていった。 

第684話

「やめてよー、僕なんか食べてもおいしくないよー。」
 それでもザーツは動きを止めようとしない。石本目線でどんどん
ザーツの口が近づいてくる。それはまるで巨大洞窟の入り口である。
「わあああーっ!」
 ついに石本はザーツの口の中に、
「もうだめだー」
「うわー、おいし……あれ?食べた気がしない。確かに口に入れたのに。」
「石本のおにいちゃん、大丈夫?」
 ザーツに食べられたはずの石本たちは、大ちゃんのすぐそばにいた。
そう、彼の力で石本たちはテレポートしたのである。石本は大ちゃんに、
「助かったよ。ありがとう。」
 するとダイちゃんが、
「別に助けなくても分身が一人でも残っていれば、5人までは分身が
 作れるんだから、いくらでも食べさせることが出来るじゃないか。」
 ザーツが、
「そうなの?、それならおなかいっぱい食べられそうだ。」
 ほかの石本たちは、
「いやだよー、噛み潰されたり、おなかの中でとけたら全部僕たち分身に
 伝わっちゃうんだよー。」
 それでもダイちゃんは石本に、
「一人だけ残って、残りは巨人の口の中へ入れ。」
 石本は一人の分身を残し、宙へと舞い上がり、ザーツの口へと向かって
行く、
大ちゃんが、
「だめだよー。戻ってー。」
 すると石本たちはザーツの口のすぐ前で動きを止め、元の場所へ戻る。
ザーツは、
「何で意地悪するんだー。食べてもいいんじゃないの?ほかのこびとも
 おいしそうに見えてきた……。」
 そういって石本や部長たちを見つめた。 

第685話

ダイちゃんが、
「何言ってるんだ。 食べていいのはこいつらだけだ!」
ザーツは、
「もうそんなのどうでもいいよ。
 もう君たちのこと豚肉にしか見えなくなっちゃったから。」
ダイちゃんが、
「もう、なんで豚なんだよ。」
部長が、
「そんなことよりまずいぞ。 ここじゃ逃げることもできない。」
ダイちゃんはザーツに、
「僕たちを食べたら、さっきのやつに怒られるんじゃないのか?」
ザーツは、
「僕がこびとを潰しちゃうことはよくあるから、また潰しちゃったって言えばいいよ。
 そしたらまた新しいこびとを買ってくるだけだし。」
部長が、
「だめだ。 こいつもう俺たちを食うことしか頭にないぞ。」
ザーツはじわじわと部長たちに近づきながら、
「さ、みんな仲良く僕の栄養になるんだよ。」 

んだよ。」 

第686話

「よし!みんなばらばらに逃げろ!!」
 しかし全員ダイちゃんが指示するまでにみんな逃げていた。ダイ
ちゃんは、
「リーダーの指示を聞いてから行動しロー。」
「そんな余裕なんてあるカー。」
 ダイちゃんの向こう側からグーアが叫ぶ。ザーツは上から見下ろし
ながら、
「みんなばらばらに逃げたな。さて、誰から食べてやろうか……。」
 そういって辺りを見回す。部長は逃げながら、
「それにしてもここは隠れられそうなところがほとんどないな。そのつど
 必要なものを出すからか? 
 一方、石本たちも同じようなことを考えていた。
「どうしよう。分身のうち誰かがつかまって食べられても同じように
 痛い思いをしちゃう……そうだ!何でもいいから隠れるものを出してー」
 石本たちのうち一人が言うと、小さな箱がいくつか落ちてきた。
「やったー。これに隠れて移動すればいいんだー。」
 箱のサイズは、石本たちや部長たちがちょうど隠れられるサイズだった。
さてザーツは、
「ん?何か落ちてきた……。」
 ザーツはそれを見ていると何人かのこびとたちがその中に入って
移動し始めた。石本とその分身たちだ。ザーツは、
「隠れて移動しても隠れた箱が丸見えだから意味ないよー。」
 そういって箱のひとつをつまみあげた。 

第687話

ザーツは、
「箱に入ってるとお菓子みたいだな。 さて、どんなお菓子が入ってるかな〜。」
そういって箱をこじ開ける。
すると中から石本の一人が出てきた。
「お、さっき食い損ねたやつだ。」
「ひいい、食べないでー。」
部長たちはそれぞれの箱の中で、石本が捕まった声を聞いた。
「よし、どうやら捕まったのは石本だな。 石本なら食われても大丈夫だ。」
ザーツは手に乗せた石本に、
「いただきま〜す。」
と言って口を近づけていく。
石本は手の上で、
「みんなー、助けてよー。 食われちゃうよー。」
と叫んだが、部長たちは助ける気はなさそうだった。
部長は、
「だが、みんなが捕まるのも時間の問題だ。 石本が食われてるうちに何か考えないと。」 

第688話

 部長たちの話し声は別の分身を通して、石本の分身たちに伝わっていた。
残った石本の分身たちは
「ひどーい、あんまりだー」
「このままじゃ食べられちゃうよー。」
「何とか助けられないかなー。」
 とは言うものの、残った4人の分身だけではどうにもならないし、
だれかに命令されなければ数を増やすことも出来ない。というか
それ以前にこれ以上数が増えないことは確認済みである。
「そうだ、こんなことめったにないから、よく味わって食べよう。」
 手のひらに乗せた石本を見つめながらザーツが言う。手のひらの
上の石本は、
「ねー。お願い。考え直してよー。僕なんか食べてもきっとおいしく
 なんかないよー。」
 ザーツは、
「それは食べてみないとわからないからね。」
 そういってもう一方の手を石本に近づける。石本は逃げようとするが、
自分にとって高く上げられたザーツの手のひらからは逃げられない。
すぐにつかまって、2本の指でつまみ上げられた。
「いやだー。食べないデー。おろしてー。」
 石本は必死になって両腕でザーツの指を押し返そうとはするが、
動くはずがない。こうしているうちに大きく開けたザーツの口がどんどん
近づいてくる。 

第689話

ザーツはとうとう石本を口に放り込んだ。
ザーツはすぐに口を閉じ、舌の上でコロコロと転がし始めた。
石本は巨大な舌にもみくちゃにされながらも必死で叫んだ。
「出してよー! たすけてーー!」
でも、閉じられた口からその声が漏れることもなく
口内に響いて消えた。

そんなこと気にすることもなく、部長たちは箱をかぶってできるだけ
ザーツから離れていた。
ゴツンッ!
「うわっ」
部長と大ちゃんの箱がぶつかった。
「なんだ大ちゃんか。」
「うん、石本のお兄ちゃん食べられちゃったよ。 どうしよう。」
「あいつは一人くらい食われたって大丈夫だ。
 でも、このままじゃ俺たちもヤバイ。」
「そうだね。 何とかしないとみんな食べられちゃう。」
「ああ、俺も何か策はないか考えてるんだが何も思いつかないんだ。」
「僕も考えてたんだけど。」
「何か思いついた?」
「この部屋ってほしい物を言えば自動で出てきたり、
僕たちにお仕置きしたりするでしょ。」
「ああ。」
「ってことは、この部屋はかなり精密な機械の塊なんじゃないかなーと思うの。」
「ふむふむ。」
「もし、故障させることができたら僕たちの能力も戻るんじゃないかな。」
「なるほど。 たしかにそうかもしれないな。
 だが、あいつが暴れても大丈夫なくらい頑丈なんだぞ?
  俺たちじゃ壊すどころか傷すらつけられない。」
「うん、力で壊すのは無理だけど機械の中に入り込んで中から壊せないかな。」
「中から? いったいどうやって?」
「石本のおにいちゃんにものすごく小さくなってもらって、見えない隙間から入ってもらうの。
 たぶん小さくなる方は制限されないはずだから。」 

第690話

「なるほど、そうか。」
 部長はそのあと、
「おーい、石本ー、聞こえるカー。」
「いやだー。」
 石本の分身たちのうちの誰かが答える。部長が、
「まだ何も言っていない。」
「どうせ……。」
 石本がせりふを言い終わらないうちに部長は、
「石本、とにかく小さくなれ!」
「ちょっとまぁぁ……。」
 石本の声が途中で小さくなって聞こえなくなった。命令どおり小さく
なったのだろう。部長が、
「しまった。小さくしたのはいいがどこにいるのかわからなくなった。」
 大ちゃんが、
「石本のおにいちゃん、聞こえるー?元の大きさに戻って。」
 すると二人の見ている前で石本が元の大きさに戻ってくるのが見えた。
石本は、
「なんて命令するんだよー。風に飛ばされたあとに、踏み潰されそうに
 なったんだよ。」
部長は、
「何とかうまくいったようだな。もし分子ぐらいまでのサイズにまで小さく
 なっていたら命令すら聞こえなくなっているかもしれなかった。
 音は分子の振動が伝わるのだからな」
 石本は、
「何実験してるんだーよ。」
 しかし部長と大ちゃんは石本の話を聞かずに2人で相談していた。
そこへたまたま近づいてきたダイちゃんも加わり、3人になる。
「なるほど。」
「これなら……。」
「リーダーのおかげだろ。」
「いや、後から加わっただけだし。」
 部長が、
「おい石本、小さくなれるだけ小さくなってこの壁の隙間を通り抜けろ。
 そのあと俺たちの手のひらくらいの大きさになって増えるだけ増えろ。」
部長がそう言った直後、石本はまた小さくなって見えなくなった。


 さて石本は……
「いったいここはどこなんだ?」
 見渡す限りボールのような物が規則正しく並んでいるのがどこまでも
続いていた。まわりもボールのようなものが一塊になってあちこち飛び
回っている。石本は規則正しく並んでいる間を通り抜けて行く。そして
まもなく広い場所に出ると石本は大きくなり始めた。


 部長たちは、
「もうそろそろかな。」
 その時である。

-ズドドドーン-

 どこかで爆発が起こった。 

第691話

部長たちは箱から飛び出て辺りを見渡した。
壁の一部分が盛り上がっていた。
「爆発音はあそこからか。」
そう言ったあと、あちこちから爆発音がなった。

ドカーン ボカーン ズドーン・・・

爆発音とともにそこらじゅうの壁がボコボコと盛り上がっていく。
そして今までとは比べ物にならない大音量の爆発音が響いた。

ズガァァァァァン!!!

盛り上がっていた壁が吹き飛んで、そこらじゅうの壁がめくれた。
部長は、
「な、なんだ。」
めくれた壁の中には何かものすごく細かいものがうじゃうじゃとうごめいている。
それは液体のように床に流れ込み、どんどん増えているようだった。
「まさか、石本なのか!?」
よく見ると、そのひとつひとつは部長たちの手のひらサイズの石本だった。
能力を制限できる範囲は部屋の中だけだったのだ。
つまり、壁の裏に回りこんだ石本たちは能力を制限されることなく
部長の言ったとおり増えるだけ増え続けているのだ。 

第692話

「すごいじゃん、やはり僕がリーダーやってるおかげだね。」
 ダイちゃんは自慢げに言う。部長は、
「いや、後から来ただけなんだが。」
 その時である。

-ズゴゴゴゴォォォン-

 大音響とともに壁が次々と崩れ落ちていく、たちまち壁はほとんど
崩れてなくなり、代わりに増えまくった石本たちがびっしりはりついてる。
部長は、
「石本よくやった……。」
 と、その後何か言おうとしたが、無数ともいえる小さな石本たちが
雪崩のように崩れて四方から部長たちに向かってきた。更にかろうじて
崩壊を免れたと思われた天井も崩れ始めた。ダイちゃんは、
「おいどうするんだ。これじゃ生き埋めになるじゃないか。」
(ついさっき僕がリーダーやってるおかげだって自慢したばかりなのに……)
 と、部長は思ったが、それどころではなくこれは明らかにやばい状況だ。
すると大ちゃんが、
「石本のおにいちゃん、もういいよ。元に戻って。」
 しかしあまりにも数が増えすぎていた。小さな石本たちは次々と合体し、
数を減らし始めたが元に戻るにはしばらくかかりそうだった。今度は
部長が、
「石本、ほかの仲間をここに連れてくるんだ。」
 すると石本たちの動きが一瞬止まり、動きが変わった。しばらくすると
「なんだ。」
「何がどうなってるんだ。」
 小さな石本の集団と言うか塊の中から、ブギヒアやグーアが出てきた。
「部屋も崩れて無くなったようだし、力も戻ったんじゃないか。」
 部長が言うとダイちゃんが、
「じゃあ試してみよう。」
 部長たちがとめるのも聞かず、ダイちゃんは巨大化のポーズをとった。
「お、いけるみたいだ。」 

第693話

ザーツは突然の事態におろおろとして、はがれた周りの壁をキョロキョロ見ている。
もちろん下にいるダイちゃんが巨大化しようとしてることに気づくわけはなかった。

ズズズズズンッ!

ダイちゃんは試しにザーツと同じサイズに巨大化した。
「わあ!」
ザーツは突然目の前に現れたダイちゃんに驚いた。
ダイちゃんは、
「さっきはよくも僕たちを食べようとしてくれたね。」
「そ、それは・・・。 ごめんなさい。」
「あやまって済む事じゃないよ。 なにしろ食べられかけたんだし。」
「ほんとに肉とかあまり食べたことなくて・・、君たちが肉に見えちゃって・・・。
 どうかしてたんです。 ごめんなさい。」
「ふ〜ん、じゃあ僕も君が肉に見えてきた。
 もっと巨大化して食べてやるから待ってろ。」
「ひいいい。」
足元で部長が、
「大ちゃんお願い。 俺たちも大きくしてくれ。」
「うん、わかった。」
大ちゃんが念じると部長たちもザーツと同じサイズに巨大化した。
大ちゃんが、
「ダイちゃん待って。
 この人もさらに巨大な巨人に閉じ込められて暮らしてるんだよ。
  食べないであげてよ。」
ダイちゃんは、
「何言ってるんだよ。
 さっきの作戦が失敗してたら、お前も今頃あいつの腹の中だったんだぞ。」
「そ、そうだけど・・・」
「僕はこいつがやろうとしたことを仕返しするだけ。 文句ないだろ。」
ダイちゃんはそう言ってもう一度巨大化のポーズをとった。
大ちゃんは止めようとしたがダイちゃんの体はどんどん巨大化していく。
そしてダイちゃんは、部屋いっぱいまで巨大化した。
「これでお前なんか一口で食えるぞ。」 

第694話

 ザーツはその場にへたり込んで、
「お願いです。食べないでください。」
 ダイちゃんは、
「だめだめ。何言っても無駄だよ。」
 そういってしゃがんで、ザーツの方に手を伸ばす。ザーツは逃げようと
したが、すぐにつかまってしまったのである。
「さて。丸呑みにしてやろうか。それとも頭からかじってやろうか。」
 ダイちゃんはザーツを手につかんだままにらみつけて言う。ザーツは
必死でダイちゃんの巨大な指を押し返そうとしている。ダイちゃんは、
「そうだ、このまま握り潰したらどうなるのかな。」
 そういってザーツを握る力を強くした。ザーツは、
「やめてください。おね……わぁっ!!」
 ザーツは何か言おうとしたが、ダイちゃんの巨大な手の自分を締め付ける
力が強くなり、しゃべれなくなってしまった。それを下から見上げて
いた部長たちだが、その中からグーアが、
「やりすぎだ。なんとか止められないのか?」
 すると大ちゃんが言った。
「もうダイちゃんが部屋いっぱいに巨大化してるから、同じように巨大化
 したら部屋が崩れて大変なことになっちゃう。」
 そうしているうちにもダイちゃんは、
「食べちゃったらそれで終わりだしなー。ほかにも怖い思いをしたし、
 どうしようかなー。」 

第695話

部長が、
「そういえば、この部屋の外はどうなってるんだ?
 更に巨大な巨人がこの部屋を管理してるんだよな。」
大ちゃんが、
「うん、今はどこかに行ってるみたいだけど。」
部長が、
「ってことは、この部屋の外にもさらに巨大な部屋があるってことじゃないか?」
「そうかも。」
「大ちゃん。
 ダイちゃんには黙って、俺達だけこの部屋の外にテレポートしてくれないか?」
「うん、今ならできるはず。」
「そして、外に出たら外の部屋にあわせて巨大化してくれ。」
「うん、やってみるよ。 ・・・でもダイちゃん怒らないかな。」
大ちゃんが念じると、部屋にダイちゃんとザーツを残して
部長たちがテレポートした。
そして外に出てすぐに巨大化した。
部長が、
「ここが更に巨大な巨人の部屋ってわけか。 なんだか変な気分だな。」
グーアが、
「この大きさの巨人が、さっきの巨人を飼ってたんですよね。」
大ちゃんが、
「それより、さっきの部屋はどこにあるんだろう。
 部屋から出てすぐに巨大化したから、どこだかわからないよ。」
部長が、
「ああ、あの中にはまだダイちゃんが残ってるからな。
 早く見つけないと。」 

第696話

 部長たちは部屋の中を探し始めたが、それらしきものは見つからない。
「あのー。」
 声をしたほうを振り向くと、ようやくひとつにまとまって部長たちと
同じサイズになった石本がいた。石本もテレポートしていたのだが、
あまりにもたくさんの数に分裂していたため、1つにまとまるのに時間が
かかっていたのだ。その石本に部長が、
「あ、お前はいい。今何もするな。」
「そんなー。」
「お前は残したところで、何をするかわからないからな。しかたなく
 つれて来たんだ。」
「面白そうなもの見つけたのに。」
「はいはい、じゃ、一人でゆっくり遊んでな。」
「仕方ない。そうしよう……。」
 石本がそう言って後ろを振り向いたとき、腕に家のミニチュアの
ようなものを抱えているのが見えた。部長が、
「おい石本。それをよく見せろ。」
「いやだよ。さっき一人で遊んでろって行ったじゃないカー。」
 部長が石本の持っているミニチュアに手を伸ばそうとすると、
とられまいとさっと上に上げた。

 さて、こちらは先ほどまで部長たちがいた部屋の中、ダイちゃんは
ザーツを握ったまま、
「よーし、決めた。よく味わって食ってやルー。」
 そう言ってダイちゃんが大きく口を開けたとき、突然のものすごい
衝撃でダイちゃんはひっくり返りそうになった。それでもダイちゃんは
ザーツを握ったまま、
「何が起こったんだ?よーし、このまま巨大化して外の様子を見てやる。」

 再び部屋の外の巨人の部屋、
「それにしてもこの部屋の外はどうなってるんだ?まさか更に大きな
 巨人に飼われてるってことはないだろうな。」
 グーアが言うとブギヒアが、
「いや、こっちにちゃんと窓があります。町の中のようです。」
 そのとき、

-バリバリ-

 石本の持っているミニチュアが破裂し、中からダイちゃんが出てきた。
ダイちゃんは、
「お前カー。お仕置きしてやる。」
 すると大ちゃんは、
「それより、ダイちゃんが捕まえていた……。」
「そいつなら、ちゃんといるよ。」
 ダイちゃんの指先にちょこんと、ザーツと思われるこびとがいた。
部長が、
「俺たち、こんなやつより更に小さくなって世話をさせられていたのか。」
 更にそのとき部屋に近づく足音のあと、
「ただいまー。ちゃんと世話をやってくれてるかなー。」
 部長が、
「あいつが帰ってきたぞ。」
 ダイちゃんは、
「もともとそいつが悪いんだ。巨大化してやっつけてやる。」 

第697話

そして、ザーツを飼っていた巨人が部長たちのいる部屋に入ってきた。
部長たちを見て、一瞬びっくりしていたが
すぐに怒り出した。
「なんなんだ君たちは。 人の家に勝手にあがりこんで。 警察呼ぶぞ。」
すると部長は、
「別に勝手にあがりこんだんじゃない。
 お前が俺達をここにつれてきたんだろ。」
「なんだと? 君たちなんて連れてきた覚えはないぞ!」
ダイちゃんが床に落ちていたこびとの飼育小屋の破片を拾って言った。
「僕たちにはこんな小さな小屋じゃ小さすぎたんだよ。」
「まさか、ザーツの世話をさせるために買ったこびと・・・なのか?」
「そうだよ。 もうこびとじゃないけどね。」
「そんな。 こんなことになるなんて・・・。 聞いてないぞ。
 マジューイのやつに騙されたのか。」
「マジューイのことも聞かないとダメだけど。
 まずはお前にお仕置きしないと気がすまない。」
ダイちゃんはそう言ってさらに巨大化しようとした。
「待って、ダイちゃん!」
大ちゃんがそれを止めて言った。
「この町のこと何もわからないから、まだ巨大化するのはまずいよ。
 ここは僕に任せて。」
大ちゃんはそう言って何か念じた。
すると目の前のザーツの飼い主が縮み始めた。
「なんだ・・・。 まわりの物が大きくなっていく・・・。 やめろー。」 

第698話

 恐怖のあまりザーツの飼い主はそのままへたり込んでしまった。
それを見た部長はダイちゃんに、
「そうだ、透明の器とかあるか?」
「何でリーダーの僕に言うんだよ。」
 ダイちゃんはしぶしぶ近くにあったコップと思われる容器を取って
部長に渡した。それを受け取った部長は、ザーツの飼い主を摘み上げ、
容器の中に放り込み、手でふたをした。部長は、
「悪く思うな。マジューイのことを聞き出すまでの辛抱だ。」
「わかったよ。いつかはこうなることになるかもしれないとはうすうす
 思っていたからな。」
 容器の中でザーツの飼い主は言った。ダイちゃんは、
「意外に冷静だな。ここでもっとパニクってくれたら面白いんだけど。」
 大ちゃんが、
「それじゃ、僕たちがマジューイのことをちゃんと聞き出せなくなっちゃう
 よ。」
 部長が、
「ところで『いつかはこうなることになるかもしれない』とか言って
 いたが、何か知っているのか?」
 ザーツの飼い主は、
「こびとや、それを世話をするさらに小さなこびとをやつから買っていた。
 ほかにもたくさんの連中が買っていたようだ。表向きはクローン製造か、
 生体ナノマシンと言うことになっているが、どこかの星から連れてきて
 るんじゃないかといううわさはあった。それに誰かが気づけばこうして
 連れ戻しにやってくるんじゃないかってね。」
大ちゃんが、
「そんな……。」
 部長がダイちゃんの指先の、ザーツと思われるこびとを見て、
「こいつも、何か言いたそうだな。言っても聞こえそうにないが。」
 すると大ちゃんが力を使ったのだろう。そのこびとは少しずつ大きく
なり、部長たちから見て手のひらくらいのサイズになった。小さいが、
やはりザーツだつた。
「本当はタニーガ星から連れてこられたんだ。働かなくても一生食べるの
 に困らない方法があるってマジューイって言う人に言われて……。」
 部長が、
「やつが今度何をやっているかはわかったが、タニーガ星までどうやって
 行くかだ。」
 するとダイちゃんが、
「情報は聞き出したし、これでお仕置きが出来る。」 

第699話

大ちゃんが、
「やっぱりお仕置きするの? 悪いのはマジューイみたいだけど・・」
ダイちゃんは、
「きっかけはマジューイかもしれないけど、僕たちに世話させたり
 食おうとしたのはこいつらの意思だろ。 ちゃんとお仕置きはさせてもらうぞ。」
ダイちゃんはザーツの飼い主が入っているコップにザーツを入れた。
今は飼い主よりザーツの方が1.5倍ほど大きかった。
ダイちゃんはコップを見ながら言った。
「どんなお仕置きにしようかな〜。」
でもコップの中では、
「あなたが僕を飼ってた人?」
「え? ええ、まぁそうかな・・」
「こうして見るとそんな風に見えないな。」
「い、今は君の方が少し大きいからね・・」
「なんだか、腹が立ってきたな。」
「え?」
「今まで僕を閉じ込めて飼ってたじゃない。」
「そ、それは・・」
外から見ていたダイちゃんが、
「おいおい、お前らけんかしてる場合か? 今から僕にお仕置きされるんだぞ。」 

第700話

 部長が、
「ちょっと待った。」
 ダイちゃんが、
「何だよ。リーダーに指示する気?」
 部長が、
「いや、よく考えたら情報と言っても星の名前を聞いただけだし、
 その星がどこにあるのか、本当にあるのかさえ確認していない。
 それにこいつらはマジューイのことをほかにも何か知っているかも
 しれないぞ。それに……。」
「ほかにも言いたいことがあるの?」
「何か重要なことを忘れているような……。」
 部長はそう言ってブギヒアの顔を見た。すると大ちゃんは、
「そうだ。その人の弟に頼まれて探したんじゃなかったっけ?名前は
 ……。」
 ブギヒアは、
「弟の名前はフィキヨだ。」
 部長は、
「こいつらを連れて戻ってちゃんとした情報を聞き出してからでも
 遅くないんじゃないか?」
 ダイちゃんは、
「でもどうやって戻るんだ?結構僕たちだけであちこちの星を回ったり
 したし。」
 すると大ちゃんが、
「今ならテレポートで戻れそうな気がする。力を制限されていた反動かも
 しれない。」
 部長が、
「ならサイズの調整も頼むぞ。小さくされたり、巨大化したりしたからな。
 実際どうなってるかわからないからな。」
 大ちゃんは、
「わかった。やってみる。」
 そう言って念じ始めた。すると部長たちの周りがバリヤーのようなもので
包まれたかと思うと、周りの風景が変わった。
「なんだか見覚えのあるところへ来たな。戻れたのか?」
 部長が言った。ブギヒアは、
「ちゃんと戻れたのなら、ワッカーマ星のはずだ。」
 大ちゃんは、
「戻れたと思うけど、ここの巨人たちはこびとを捕まえていたんだよね。
 みんな無事かなぁ。」
 部長は、
「とりあえず戻ろう。こっちには宇宙船もある。」


 部長たちは長い間離れていた宇宙船にやっと戻ることが出来た。
もちろん大ちゃんのサイズ調整の後に、ブギヒアとフィキヨは再会を
果たした。
「もっとゆっくりしていけばいいのに。」
「お礼ならいくらでもする。」
 ブギヒアとフィキヨの兄弟は言ったが、部長たちのいない間に宇宙船は
完璧に整備され、なにやらパワーアップもされたようだった。そして
その日のうちにタニーガ星へ向けて出発した。宇宙船の中でダイちゃんが、
「パワーアップした割には到着まで時間がかかるな。」
 するとサンドが、
「パワーアップと言っても限界もあるわ。それにみんなが戻ってくるまで
 心配してたのよ。でもその間に宇宙船もいろいろ改良できたし。」
 そういっている間に宇宙船は、タニーガ星に到着した。宇宙船の外へ出た
部長と大ちゃんとダイちゃんだった。
「特に変わったところも無いようだが……。それにこの星の住人の本来の
 サイズもわからない。連れてこられるときに都合のいいサイズにされ
 たかもな。」
 外へ出て調査のために歩き始めた部長たちだったが、3人を見下ろす
巨人がいたことには気づいていなかった。 


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