戻る
354号室へ
進む

第661話

ダイちゃんが沈みかけたとき、目の前を巨人がぷかぷかと流れてきた。
大ちゃんがチンコといっしょに強く握ったせいで力尽きたようだった。
そして一瞬ピカッと光ったと思うと、元の人形に戻った。
その瞬間、大ちゃんが我を取り戻した。
「はっ! ダイちゃん大丈夫? 今助けてあげるからね。」
大ちゃんはダイちゃんを摘みあげて手のひらに乗せた。
ダイちゃんはしばらく息をきらして話せない状態だったが、
やっと話せるまで回復した。
「おまえなぁ、もうちょっとでやばかったぞ。 リーダーをこんな目に合わせるなんて、どうなるか覚えてるよ。」
大ちゃんは、
「そんなこと言われても・・・。 あの時は僕自身でもどうしようもなかったんだよ。」
ダイちゃんが、
「どうしようもないわけないだろ。 自分でやったんじゃないか。」
「ほんとだよ。 呪いのせいだと思うけど、巨大化するたびに目の前のこびとにぶっかけることしか考えられなくなっていったんだ。」
ダイちゃんは少し考えて、
「まぁ、これで僕の呪いも解けたわけだから半分は許してやるよ。」
大ちゃんが、
「ええー、半分だけ?」
ダイちゃんが、
「当然だろ。 あれだけのことしたんだし。」
大ちゃんが、
「そういえば町の人たちの呪いも解けたんだよね。 捕まったみんなを助けに行かなきゃ。」 

第662話

「その必要はない。」
 突然声のしたほうを大ちゃんとダイちゃんが振り向くと、例の魔人が
すぐ後ろに立っていた。ダイちゃんは、
「くそっ、だましたな。」
「だましてなんかいないぞ。約束どおり呪いはすべて解いた。このあたりに
 いた町の住民たちも町の広場に返しておいた。」
「て、いうかあまりにも都合よすぎるだろ。」
「それならば、町に戻って確かめてくればいい。」
「そんなこと言って。ぼくたちが町に行っている間に逃げる気だろ。」
 すると大ちゃんが、
「そうだ。どうして町の人に呪いをかけたりしたの。」
「今となってはあいつにだまされたのかもしれない。」
 ダイちゃんが、
「またいい加減なことを言って……。」
 すると大ちゃんが、
「とにかくうそかほんとか、話を聞いてから考えようよ。」
「あいつから町の住人たちが私の宝を狙っているといわれ、宝を盗られ
 ないように強力な呪いをかけたのだ。」
 ダイちゃんが、
「だったら、だまされたとわかった時点で呪いを解けばいいじゃん。」
「いや、その呪いは強力すぎて私自身でも簡単に解くことができない
 のだ。」
「そうか、呪いを解くためにあの巨人に変身する人形を……。」
 大ちゃんが言うと魔人は、
「そのとおり、あの人形が呪いを解く鍵なのだ。」
 ダイちゃんが、
「ところで宝って何なんだよ。」
「ついてきなさい。」
 魔人が言うとダイちゃんが、
「なんかまだ信用できないな。」
 そのあと大ちゃんに言う。
「そうだ、力が戻っているのなら、みんなをここにテレポートさせてよ。
 もしうそだとわかったらみんなでこいつをやっつけよう。」
 大ちゃんは、
「やっつけるのはともかく、力が戻ったどうか試してみるよ。」
 そう言った後大ちゃんが念じると、部長たちがテレポートしてきた。


「こっちだ。」
 部長たち一行は魔人に案内され、洞窟の中へと入っていった。部長は、
「確かに、巨人になったら、この中には入れないな。」
 ダイちゃんは、
「本当に宝物があるんだろうな。うそだとわかったら巨大化してここごと
 つぶすから。」
 部長は、
「そんなことしたらこっちまでやばいだろ。」
 大ちゃんも、
「逆にまた呪いをかけられるかもしれないよ。」
 しばらく歩くと、洞窟の奥の古代遺跡らしき場所にたどり着いた。
ダイちゃんは、
「いかにも宝がありそうな場所だな。そろそろ、宝がなんだか教えてよ。」
 魔人は、
「うむ、これ自体が宝なのだ。先祖代々この場所を守り続けている。
 ここはさまざまな場所へ一瞬で行くことができる扉があるのだ。」
 部長は、
「なるほど、転送装置みたいなものか。ところでだましたやつって
 もしかしてマジューイとか言ってなかったか?」
「よく覚えていないが、そういう名前だったような。」
 そうしているうちに一行は、ドアがたくさんある部屋にたどり着いた。
「よし、早速あけてみよう。」
 石本がそのうちのドアのひとつを開けた。部長が止めようとしたが
時すでに遅し、魔人を残し全員が開けたドアの向こう側へと吸い込まれて
しまった。 

第663話

部長が、
「ここはどこだ?」
すると石本が、
「さぁ。」
部長が、
「なにが、さぁだ! だから勝手なことするなといつも言ってるだろう!」
石本は、
「だから勝手なことできないようにいつも命令するじゃないか。」
部長は、
「お前ばかりに気を回してられないからだ! そんなこと言うなら、一生こびととして生きろと命令するぞ。」
石本は、
「え! そ、それだけはやめてえええ。」
「だったらもう大人しくしてろ。」
「はーい・・・」
ダイちゃんが、
「そんなことどうでもいいから、ここがどこなのか調べろよ。」
大ちゃんが周りを見渡して言った。
「なんにもないね。 前みたいに目に見えないほど小さな街があるわけでもなさそうだし。」
部長が、
「マジューイの罠だとすると、また突然巨人が現れたりするんじゃないか?」
ダイちゃんが、
「ありえなくはないけど、人の気配もないし。」
すると大ちゃんが、
「痛いっ!」
「大ちゃん、どうしたんだ?」
「ここに透明の壁かなにかあるみたい。 ぶつかっちゃった。」
部長がそこに触れてみた。
「ほんとだ。 ガラスの壁があるみたいだ。」
ダイちゃんが、
「人の気配はしないけど、なんか視線感じない?」 

第664話

 部長や大ちゃん、ブギヒア、グーアはそれぞれ周りを見たり手探りで
壁があるか調べてみる。部長が、
「確かに壁のようなものはあるが、周りを囲まれているわけでもない
 ようだな。」
「おいっ!。」
 ダイちゃんが突然大声を出す。大ちゃんが、
「どうしたの?」
「今さっき誰から触られた。」
 とは言うもののダイちゃんの周りに手を伸ばして届く距離に誰も
いないし、ほかに人間も動くものも誰も見ていない。石本は、
「なんだか気持ち悪いなぁ。」
「て、言うかお前が悪いんだろ。」
 ダイちゃんが言う。
『いやいや、そうでもないよ。』
 突然、どこからともなく声がした。全員で周りを見回したが、やはり
誰もいない。ダイちゃんが見えない声の主に向かって言う。
「おいお前いったい何者だ?」
『久しぶりのお客さんだから。大事にしないとね。』
 石本が、
「もしかして、そんなに悪い人じゃないんじゃ……。」
 そういうと部長が石本をにらみつけて、
「お前が言うな。」
 ブギヒアは、
「それにしても声の主はいったい誰なんでしょう。」
 ダイちゃんが、
「どこにいるんだ。姿を現せ!」
 そういって巨大化のポーズをとろうとした。すると大ちゃんが、
「だめだよダイちゃん、ここがどういうところかもよくわからないのに。」
『悪いけど今は姿を見せられないんだ。見えない壁を右にたどって。』
「うーむ、今回は声の主以外の手がかりはないし、右に行って見るか。」
 部長が言うとダイちゃんが、
「それはリーダーの僕が決めることだよ。」
 そのとき先に進んでいた石本が、
「あ、こんなところに見えないボタンみたいなものが、押してみよう。
 ぽちっとな。」
 部長が石本に、
「だからあれほど勝手に……。」
 部長が怒鳴っているうちに景色が一変した。見えなかった壁が現れ、
全員が広い部屋の中にいるようだった。部屋には出入り口らしい大きな
ドアがひとつだけある。部長が石本に、
「こらっ石本!」
「まだ何もしていないよ。」
「て、言うかお前このドアを開けようとしてただろ。」
「なんでわかるの?」
 そのとき、誰も触っていないのに突然ドアが開いた。石本は、
「え、今のは触っていないからね。」
 全員はしばらく相談して、ドアの向こう側へ行くことにした。ダイ
ちゃんが、
「ほら見たことか、やっぱり僕たちだまされたんだ。」
 ドアの向こう側は更に大きな部屋というより倉庫ともいえる巨大な
空間だった。部長が、
「まだだまされと決まったわけじゃないだろう。こいつが俺たちを
 襲ってくるかどうかもわからないしな。」
 部長達の目の前には巨人がいた。ただしその巨人は寝ていたのだ。 

第665話

部長が、
「寝ているようだな。 ってことはさっきの声はこの巨人のものじゃないってことか。」
大ちゃんが、
「そうみたいだね。 でもまだまだここがどういうところなのかわからないね。」
ダイちゃんが、
「とにかく巨大化して、こいつを叩き起こして聞き出せばいいじゃん。」
ダイちゃんはそう言うと、巨大化しようとした。
が、またまた巨大化できない。
「またかよ。 自由に巨大化できないとイライラするのにー。」
するとまたどこからか声が聞こえてきた。
『まだ言ってなかったけど、さっきの部屋で君たちの体にある処置をさせてもらったよ。』
「処置?」
『ああ、処置と言っても危害を加えるようなものじゃないから安心して。』
「じゃあ、いったいどういう?」
『そこで寝ている方に悪影響を及ぼす可能性のある能力や行動をできなくする処置です。』
ダイちゃんが、
「それのせいで巨大化できないのか。」
部長が、
「それに寝ている巨人はなんなんだ?」
大ちゃん、
「なんだかずいぶん大事にされてるみたいだね。」
ダイちゃんが、
「そうか? こんな倉庫みたいなとこで全裸で寝てるのにか?」
大ちゃんが、
「だって僕たちが危害を加えないようにしたりさー。」
部長が、
「それより、俺たちはここでなにをすればいいんだ? さっさと抜け出したいんだが。」
するとダイちゃんが、
「どうせこれもマジューイの罠なんだ。 ほっといたって何か起こるよ。」 

第666話

「誰だか知らないが、ここからの出口を教えてくれないか。ここにいる
 やつをそこまで大事にしてるんなら、俺たちがいたらまずいんじゃ
 ないか?」
 部長が言った。
『それはできないよ。』
 ダイちゃんが、
「ほーら、やっぱりわなだった。」
『そうじゃない。このお方が望まれたことなんだ。』
 部長が、
「どういうことなんだ?」
『あとでお礼をするよ。その代わり、しばらくここにいてあげて。』
「要は、こいつの相手をしろって言うことか……。」
 部長が言った。石本が、
「とは言っても、寝ているだけだし……。」
「元はといえばお前が……。」
 部長が言うとグーアが、
「もしあの声の言うことがうそじゃなかったら、もしかしたらここにいれば
 いいんじゃないか?」
 するとダイちゃんが、
「いるっていつまで?一時間?二時間?一日?もしかしたら一生ここにいなきゃ
 ならないかもしれない。」
 そのとき石本が、
「それにしてもおなかすいたなー。」
「そんなこと言ってる場合じゃ……。」
 部長が言う。そのとき近くの壁が開き、箱のようなものが中から
出てきた。石本は、
「きっと食べ物だよ。」
 そういって箱のようなものを開けようとする。部長は、
「勝手にするなと何度言ったら……。」
 すると大ちゃんが代わりに注意深くあける、
「危険なものじゃないみたい。」
 グーアが、
「うーむ、食い物みたいだな。」
 部長が、
「なるほど、必要なものは出してくれるみたいだな。」
 その時である。巨人が部長たちのほうへ寝返りをうとうとしていた。 

第667話

「うわああああ・・・」

ズズウウウウウン

寝ている巨人は思ってたより離れていたため、部長たちはギリギリ潰されずに済んだ。
大ちゃんが、
「近くで見ると、かなり大きいね。」
部長が、
「ああ、こんなのに乗られたらぺちゃんこじゃすまないぞ。」
するとまた声が聞こえてきた。
『ああ、言い忘れていたけど。 君たちを痛めつけようとか潰そうとか、そういうことは考えてないけど。
 今みたいに無意識に潰しちゃう可能性はあるから気をつけてね。』
部長が、
「何が気をつけてねだ。 潰されたら終わりなんだぞ。」
『そうですよ。 せっかく高額で取り寄せたものなんだから、すぐにゴミになってもらっちゃ困るからね。』
「高額で取り寄せた??」
『あっ、いえいえ。 今のは忘れてください。』
ダイちゃんが、
「やっぱり何か裏があるね。」
『それと、君たちの安全を保証できない代わりに欲しい物があれば用意するよ。』
部長が、
「さっきの石本みたいにか。」
『そろそろ目覚ましの時間です。 この方を起こしてあげて下さい。』
「はぁ? こんな巨大な巨人を起こせだって?」
『はい。 目覚ましぐらいできないと困りますよ。 使えない道具はゴミ箱行きですから。』 

第668話

 すると部長が、
「心配するな。俺たちには石本が、石本、巨大……。」
 部長がそう言おうとした時、

-ガッシャーン-

 突然どこからともなく現れた金だらいが部長の頭の上に落下した。
部長が頭を抱えて、
「いたたたた。こら石本笑うなー。もともとお前のせいだろう。」
 ダイちゃんが、
「まったく、命令できなきゃ、こいつの能力も意味ないな〜。」
「でどうやって起こす?」
 グーアが言う。部長が、
「うーむ。大声で起きるくらいなら声の主が呼びかけるだけでいいはず
 だしな。」
 ブギヒアが、
「私がなんとかできるといいのですが、気持ちよくさせたら逆に眠らせて
 しまいそうですし……。」
「このままというわけにもいかんだろ。また寝返りを打たれたら……。」
 グーアが言う。大ちゃんが、
「何かいい方法はないかなぁ。」
 すると石本が、
「何か道具を出してもらったらどうかなぁ。僕たちがちょっとたたいた
 くらいでは起きそうもないし……。」
 部長が、
「そうだな。」
 するとすぐ後ろで、

-バラバラ-

「やったー、何かでたって。これは……。」
 石本が言った。部長たちのすぐ後ろには人数分のボクシングのグローブが
あった。
『このくらいなら。何とかなるかもね。じゃ、がんばって起こしてねー。』 

第669話

部長が、
「おい、これじゃあんまり変わらんだろ。 こいつ起こすなら、バズーカぐらいないと無理だろ。 バズーカ出せ。」
『あなた達が必要なものは何でも出しますが、この方を傷つける恐れのあるものは出せません。』
「何言ってんだ。 こんなでかいんだから平気だろ。」
『もしかすり傷ひとつでもつけば、あなたは潰されてゴミ箱行きだけどいい?』
「なっ。 かすり傷つけただけで潰されるのか。」
『当然ですよ。 まぁ、あきらめてそれでがんばって。』
グーアが、
「ここではこの巨人が絶対的な存在みたいだから、乱暴なことはできないってことですね。」
部長が、
「今の俺たちがこいつに乱暴したところで、びくともしないだろうけどな。」
ダイちゃんが、
「んで、どうするの? まぁ、ほんとはリーダーが決めることだけど特別に決めさせてやる。」
石本が、
「ダイちゃん、巨大化できないとただのガキだな。」
ダイちゃんが、
「うるさい! 後で食ってやる。」
部長が、
「とにかく、このグローブでなんとかするしかないか。」
ブギヒアが、
「でも、効果があるかどうか・・・」
部長が、
「一番敏感な部分ってどこだ? そこを集中的に殴れば、もしかしたら。」
石本が、
「一番敏感っていえば、チンコでしょ。 あー、僕もやらせたいなぁ。 こびとどもに僕のチンコを・・・」
部長が、
「バカな妄想するな。 後でお前を縮めて、俺のチンコを思う存分殴らせてやる。」
「そんなぁー。」 

第670話

「うーん、それにしてもチンコを触られて起きたやつの話なんて、
 聞いたことがないなー。」
 グーアが言う。すると部長が、
「しかし、効果がありそうなことはやってみないことにはだめだと思う。」
「でも無理かも。」
 石本が言う。部長が、
「なんでやりもしないでそんなことを。」
「そういえばこの巨人、パンツはいてるな。どうやって脱がすんだ?」
 グーアが言うと今度はダイちゃんが、
「しょうがないなぁ。パンツの中に入ってやるしかないなぁ。」
 しかし、巨人のパンツは、トランクスというより、ブリーフに似ていて、
パンツの中へ入り込めそうにない。ダイちゃんは、
「巨人といったら今までは裸だったのに、何でこいつに限ってパンツを
 はいてるんだ。」
 部長は、
「しょうがない。チンコ以外で殴って起こせそうなところを探そう。」
 すると大ちゃんが、
「そうだ、顔とかどうだろう。」
 巨人は今、仰向けに寝ている。部長が、
「うーむ。よじ登るまでが大変そうだ。」
 ブギヒアが、
「回り道になりますが、パンツの端につかまって登って、顔へ行く
 しかないですね。」
 石本が、
「でも顔にたどり着くまでに、巨人が寝返りを打ったらどうするの?」
 するとダイちゃんが、
「行くしかないだろ。置いていくよ。」
「そうだな。」
 部長が言うと石本以外全員が、巨人のパンツのほうへ向かって歩き
始めた。石本が、
「おーい待ってよー。」
 あわててあとを追いかけ始めた。」 

第671話

そして全員巨人のパンツの前に到着した。
部長が、
「うん、これなら何とか登れそうだ。」
巨人のパンツは生地がごわごわしていて捕まりやすそうだった。
石本が、
「こんなとこにいたら、ちょっとでも動かれたらアウトだよー。」
ダイちゃんが、
「よし、登るぞ。」
そういって登り始めた。
そして、ダイちゃんの後に続いて全員登り始めた。
部長が、
「よし、もうすぐ頂上だ。」
そのとき、すぐ下でグーアが
「うわああああああ。」
「どうした!?」
グーアの方を見ると、巨人の手がグーアの方に近づいてきていたのだ。
「寝ているはずなのにどうして・・・」
すると巨人の手はグーアの手前で止まり、パンツ越しにボリボリと掻きはじめた。
こびとたちがパンツを登る微妙な感触のせいで痒くなったようだ。
部長が、
「今のうちに早く登るんだ!」
そしてどうにか全員無事に登りきることが出来た。 

第672話

「さて、これからどうしよう。」
 石本が言うと部長は、
「もちろん、顔のほうへ進むんだ。」
「でもうかつに進むと、またさっきのようなことに……。」
 グーアが言う。部長は、
「しょうがない。普通に歩いても下が柔らかくて安定も悪い。匍匐
 (ほふく)前進でもしないと、たどりつけない。」
 ダイちゃんが、
「ドンだけ慎重なんだよ。こんな巨人の上をほふく前進してたらいつ
 到着するかわからないだろ。」
 石本が、
「はいはい、子供は黙っててねー。」
 ダイちゃんが、
「くそっ、力が戻ったら真っ先に食ってやる。」
 すると部長が、
「なら石本、お前一番先に行け。普通に歩いて。」
「なんでだよー。」
「慎重さも大事だが、早くたどり着けるに越したことはないだろ。
 途中で巨人が寝返りでもうったら、元も子もない。」
「でもここでは命令は無効だって、わかったからね。行かないよー。」
「ふふふ、そうかな……。」
 部長が石本を見つめてにやりとする。次の瞬間、石本のからだが、
自分の意思に反して動こうとする。
「そ、そんなー、どうして?」
「やっぱりな。巨大化させようとしなけれは大丈夫みたいだな。」
 ダイちゃんが、
「なるほど、こいつが先に行けば、安全かどうかわかるからな。」
 石本は一人、巨人のからだの上を顔に向かって歩き始めた。 

第673話

石本は、
「もう、なんでこうなるんだよー。」
意思に反してどんどん進んでいく。
部長が、
「この巨人に危害を加える可能性のある命令以外ならできるってことだ。 みんなの役に立ててよかったな、石本。」
石本は進み続け、首の近くまで来ていた。
部長が、
「よし、そろそろ俺たちも行くか。 どうやら大丈夫そうだ。」
部長たちは石本が歩いた所をなぞるように歩き出した。
グーアが言った。
「それにしても、人の体の上を歩くなんて変な気分だな。」
そのとき、少し巨人の体がグラっと揺れ手が動き出した。
部長が、
「まずいぞ。」
巨人の巨大な手は、確実に部長たちの方へ移動してきていた。
「走るぞっ!」
部長の掛け声でみんないっせいに走り出した。
そして巨大な手は、さっきまで部長たちが歩いていた場所をボリボリと掻いていた。
部長たちは首のところにいた石本のところまで走りぬいた。
石本が、
「どうしたんですか。 僕を先に行かせるんじゃなかったんですか。」
部長が、
「また手が出てきたんだ!」
ブギヒアが、
「たぶん、みんなでぞろぞろ歩いていたから巨人が痒がったんでしょう。」
部長が、
「一人ずつ行った方が安全だったってことか・・・。 終わったことは仕方ない。 顔までもうすぐだ。」 

第674話

 ダイちゃんが、
「確かにそうなんだけど、下手をすればまた巨人が手を伸ばしてくるよ。」
 グーアが、
「顔の上に上がるまでが一苦労だな。」
 大ちゃんが、
「目的地まで、もう少しなんだけど。」
 すると部長が、
「おい。」
 石本が、
「いやだよ。」
「そうは言っても巨大化以外、拒否できないだろ。」
「いやなものはいや。」
「でも顔の上まで先に登ってもらう。」
「そんなー。」
「顔の上についたら、ロープを頼め。一人ずつ引っ張りあげるんだ。」
 ブギヒアが、
「でもどうやって顔の上まで登るんです?ひげでも生えてればつかまって
 登れそうなんですけど。」
 すると部長が、
「巨大化こそ出来なくなったが、命令さえすれば空でも飛べる。」
 石本が、
「そんなむちゃくちゃなー。」
 しかし、石本がそう言った直後、彼の体がふわふわ浮き始めた。すると
ダイちゃんが、
「そうだ、ロープで一人ずつ引っ張りあげるより一人ずつ直接顔の上まで
 運んだほうがいいんじゃないか?」
部長が、
「なるほど。」
石本は嫌がったが命令には逆らえず、一人ずつ巨人の顔の上まで運び始めた。
「最初からこうすればよかったんだ。」
 ダイちゃんがそう言ったとき、石本は最後の一人であるグーアを自分の
背中につかまらせ、あがってきたところだった。グーアをおろすと、
「あゝ、やっと終わった。」
 が、終わりでなかった。石本が降りたところは巨人の口の上、巨人が
口を開けて石本はその中へ落ちてしまった。 

第675話

「た、助けてー。」
石本は巨大な舌の上に捕まり、なんとか這い上がろうとしたが
ぬるぬるとした唾液のせいでズルズルと喉の奥の方に滑り落ちていく。
「もうダメー。 飲み込まれちゃうよー。」
石本が叫んでると、上から部長が
「おーい、石本大丈夫かー? 上がってこーい。」
すると石本の体は浮き上がり、口からふわふわと出てきた。
「た・・助かった。」
だが、またあの声が聞こえてきた。
『変なもの口に入れないでくださいね。 喉をつめたり、お腹を壊されたりしたらどうするんですか。』
石本が、
「変なものだなんてひどいよー。 こっちは飲み込まれかけたんだよ。」
それでも声は、
『あなたたちにはもう少し縮んでもらいます。』
部長が、
「ええ? 縮んでもらうって、更に俺たちを小さくするのか?」
そしてどこからか、部長たちに向かってレーザーのようなものが当たった。
「うわああ、なんだ。 体が縮んでいく。」
部長たちは、さっきの3分の1ほどのサイズに縮められた。
「おい、さっきまでの大きさですら起こすのに苦労してたんだぞ。 こんな小ささじゃ、どうやって起こすんだよ!」
すると声が、
『それは自分たちで考えてください。 縮めたのは、喉に詰まらない大きさにするためですから。 では。』 
きさにするためですから。 では。』 

第676話

「"では"って何だよー、いい加減にしろー。」
 ダイちゃんが言う。大ちゃんは、
「怒ってみてもしょうがないよ。ほかに方法を考えないと。」
 するとブギヒアが、
「ならどうでしょう。この大きさなら耳の穴に入っていけます。ならば
 耳の中で直接大声で起こしてみたら……。」
 部長が、
「しかし小さくされてしまったから逆に耳の穴までたどり着くのが
 難しくなったな。」
 大ちゃんが、
「ちょっと考えたんだけど、石本のお兄ちゃんが巨大化以外いろいろ
 出来るんなら、僕の力ももしかしたら巨大化を除けば残ってるかも
 しれない……。」
 部長が、
「耳の穴へ直接テレポートするのか。」
 すると石本が、
「だったら最初からそうすればよかったじゃないカー。今までの苦労は
 何だったんだよー。」
「なら、早速試したほうがいいんじゃないか。早速みんなでやって
 みよう。」
 グーアが言うとダイちゃんが、
「ちょっと待てよ。だからといって全員一度に行って耳の穴に詰まったら
 どうなるんだよ。」
 部長が、
「じゃあ石本、お前最初に行って来い。でも動くなよ。」
 大ちゃんが念じると、石本はその場から消えた。部長は続けて、
「やった成功だ。石本、大声を出せ。」
 すると遠くから石本の声、おそらく巨人の耳の穴からだろう。
「こんなので起きたら苦労しないよー。」
「最初からやりもしないで弱音を吐くなー。」
 ダイちゃんが言うと石本が、
「わかったよー。起きろー!」
 部長が、
「なんかやる気のない声だなー、こんなので……。」
 しかし巨人はその声が聞こえたのか顔を動かした。そうなるとその
上の部長たちは当然顔から振り落とされそうになるのだった。 

第677話

「みんなどっかに捕まれ!」
「捕まるとこなんてないよー。」
巨人はそのまま上半身を起こし始めた。
捕まるところのない部長たちは、そのままずるずると下に滑り落ちていく。
「うわああああ。」
部長たちは腹の辺りで止まった。
部長が、
「ふう、危なかった・・・」
ダイちゃんが、
「安心してる場合じゃないでしょ。
 このまま完全に起き上がられたら、床に落ちちゃうよ。」
「そうだった。 大ちゃん、みんなを安全なとこに移動させてくれ。」
大ちゃんは、
「うん、やってみる。」
そう言って念じた。
部長たちは巨人の近くの床にテレポートした。
見上げると、巨人はまだ寝ぼけたような状態だった。
するとまた、あの声が聞こえてきた。
『おはようございます。 よく眠れましたか?』
巨人が眠そうに返事をする。
「あ〜、うん。 おはよう。 まだ眠いよ。」
『あ、近くにこびとがいますので気をつけてくださいね。』
「ええ、また勝手にこびと買ったの?」
『はい。 私では直接お世話をできないので、私の手足として
 働いてもらうためですから。』
「前だってすぐに潰しちゃって役に立たなかったじゃない。」
『今回は、こびと販売で定評のあるマジューイから購入したので。
 今までより頑丈なこびとを送ってもらえたはずです。』

下で聞いていたダイちゃんが、
「やっぱりマジューイがやったんだ。
 しかも僕たちを勝手に商売道具にするなんて、許せない!」 

第678話

『じゃあ、しばらく出かけるから、彼の相手をしてあげてね。』
 それを聞いたダイちゃんは、
「何を言ってるんだ、こんな所さっさとおさらばだ。」
『無駄だとは思うけど、逃げようなんて思わないでね。』
 部長が、
「一体、どうすりゃいいんだ。」
 ダイちゃんは、
「だから言っただろ、ここから逃げるんだよ。」
「あのー、それはちょっとやめたほうが……。」
 上から巨人の声。
「大体どれだけ大事にされているから知らないけど、僕たちは君の世話
 なんかする気はないからね。」
「外は危険だよ。」
「そんなことないだろ。そんな巨大な体なら、あいつなんか踏み潰せる
 だろ。」
「逆だよ。直接会った事はないけど、ずっと話していた声の主は僕から
 見てもずっと大きいはずからね。」
 部長が、
「どういうことなんだ。」
 巨人が、
「君たちから見れば僕は巨人に見えるけど、ここではこびとだよ。
 コンテストのために優秀なこびとを育てるんだけど、小さくて自分自身
 ではお世話が出来ないから更に小さなこびとを買ってきてお世話を
 させるんだ。」
大ちゃんは、
「でも、ペットとかそういうものじゃないよね。敬語を使ってたし
 君のことをかなり大事にしているような感じだったよ。」
 巨人が、
「このイタマーサ星では有名なこびとブリーダーだからね。賞金やCM契約で
 かなり儲かっているみたいだよ。そうだ、僕の名前はザーツ、よろしく
 ね。早速僕のお世話を頼むよ。」 

第679話

ダイちゃんが、
「だから世話を頼まれても、こんな小さい体じゃ無理だって言ってるの。」
ザーツは、
「でも僕にはどうしようもないし・・」
ダイちゃんは、
「くそー、巨大化さえできたらこんなことにならなかったのにー。」
ザーツは、
「ダメだよ。 もし僕に少しでも傷がついたら、僕も捨てられるし君たちも
 ただじゃすまないよ。」
部長が、
「とにかく今はどうすることもできないし、世話をしながら作戦をたてよう。」
ダイちゃんが、
「もう、また勝手に。 それで、世話ってなにするの?」
するとザーツが、
「えーと、起きたらまず歯磨きだよ。」
「そんなの自分でできるじゃん。」
「普通の歯ブラシじゃ歯茎に傷つけてしまうから、こびとに小さな
 歯ブラシ持たせて1本ずつ洗ってもらうんだ。」
「なんだよそれ。 どんだけ時間かかるんだよ。」
ザーツはみんなの前に巨大な顔を近づけた。
「じゃあ、お願いね。」
そういって口をあけた。
部長が、
「とりあえず今はしたがうしかない。」
小さな歯ブラシを出してもらって、巨大な口に近づいていった。
するとザーツが、
「あ、言い忘れてたけど。 前に歯の上を磨いてたこびとを誤って
 噛み潰しちゃったことがあったから気をつけてね。」 

第680話

「ちょっと待て、危険すぎるだろ。」
 グーアが言うとザーツは、
「あの時は口をずっとあけているのが疲れてきて……。というわけだから
 なるだけ早くしてね。」
「早くしてね……と言われても……。そうだ!!」
 部長は石本に、
「おい石本、道具ごと分身しろ。なるだけたくさんに。」
 ダイちゃんが、
「なるほど、それならいいや。すぐに済むな。」
 石本は命令されると、分身をはじめたが、5人になった時点でストップ
してしまった。大ちゃんが、
「石本のお兄ちゃんの力も、制限されているのかなぁ。」
「んもう。肝心なときに役に立たないんだから。まあ、いないより
 ましか。」
 ダイちゃんは分身した石本1号から5号に言った。石本たちは、
「そんなー。」
「あんまりだよー。」
 部長が、
「とにかくはじめるんだ。」
 ダイちゃんが、
「だからー、それは僕が言うんだって。」
 こうして部長たちはザーツの歯磨きを始めた。作業は石本が5人とは
いえ分身した分ある程度は早く進むと思われた。そのとき、
「うわぁっ!助けてくれえっ!」
 声をしたほうを振り向くと、グーアがザーツの歯茎と舌の間に落ち込んで
しまったのだ。助けようにも唾液がまとわりついて、うまくいかない。
ザーツも気づいて舌で何とかしようとするが、逆に舌に押さえつけられて
押しつぶされそうになってしまうのだ。部長は、
「このままじゃ……。」 

戻る
354号室へ
進む