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第881話 部長は、 「そんなすごそうなもので攻撃されたら、さすがにまずいんじゃないか?」 魔王は、 「心配するな。 さっきまでのお前らとは違うんだ。 レベルアップした力でおもいっきり暴れて来い。」 ダイちゃんも、 「そういえばなんかさっきより強くなった気がする。」 部長は、 「それで、また今回もリーダーを潰さないとクリアにならないのか?」 魔王は、 「その通りだ。 おそらくあの空中要塞の一番奥にいるはずだ。」 ダイちゃんは、 「それならすぐに終わらせてやる。」 ダイちゃんはそう言うと、足元の大き目の瓦礫をつかんで空中要塞に投げつけ始めた。 だが、どんなに投げつけても空中要塞に当たる前に瓦礫がはじき返されてしまった。 ダイちゃんは、 「どうなってるの? 狙いは完璧なのに。」 魔王は、 「あれは物理攻撃を防ぐバリアだ。 つまり、空中要塞は魔法攻撃しか効果がない。」 部長は、 「そんなこと言っても、俺たち魔法なんて使えないぞ。」 するとベルが、 「いや、ちょっとまて。 自分のステータスを確認してみろ。 なにかいろいろと使えるようになってるみたいだ。」 第882話 ダイちゃんが、 「じゃ、ちょっと見てみようか。」 そう言って手馴れた「操作」でステータスを開いた。 [ジャイアントオーク01 レベル75 HP13800/13800 MP4600/4600] 「あ、本当だ。ステータスにMPがあるということは魔法がつかえる。」 [回復「いい薬草代わりの回復魔法」(1名のHPを200-600回復させる 使用MP:50)] 「HPが増えすぎてて役に立たないジャン。何度も使うのもめんどくさそう だし……。」 部長が、 「回復魔法があるなら攻撃用の魔法もあるはずだ。」 ニショブは、 「これなんかどうだ?」 [レインボーレーザー(7色のレーザーをその辺に発射 使用MP:60)] ダイちゃんが、 「見た目は派手そうだけどその辺に発射って、相手に命中させるどころか みんなにダメージが出そうだ。」 部長は、 「うーむ。周りが敵とかだったら使えないこともなさそうだが…… これを試してみよう。」 [ホーミングショットB(目標に向かって自動的に飛んでいく 使用MP:120)] すると大ちゃんが 「でもどうやって使うの?」 ダイちゃんが、 「同じのがつかえるから、やって見よう。」 [ホーミングショットBを使いますか?「はい」「やっぱりやめる」] ダイちゃんが「はい」を選ぶととダイちゃんの目の前に小さなウインドウ というよりカードが現れた。カードは光の玉に変化し、空中要塞へ向かって 飛んでいく。 −ヒュロヒュルヒュル……バシッ− 部長が、 「うーむ。命中はしたようだが……。」 ベルが、 「いいのがあったぞ。」 [飛行「スカイウィング」(しばらく空を飛ぶことができる。 使用MP:150)] ダイちゃんが、 「これなら直接乗り込んで攻撃できる。」 部長たちは先ほどの魔法で全員空を飛び、空中要塞へ向かった。その直後、 −ウィィィィーン、バシイッ− 空中要塞からぶっといレーザーのようなものが発射され、先ほどまで 部長たちのいたところには巨大な穴があった。空中要塞へ向かう部長は、 「うーむ、このままあの場所にいたら危なかったな。」 空を飛んで空中要塞上空近くまでやってきた部長たち、その空中要塞の 上に何かがいた。ベルは、 「む、あれはなんだ?」 部長は、 「おそらく空中要塞を守ってるやつだ、でかいな。」 空中要塞の上には部長たちの2,3倍くらいと思われる巨人がいたのだ。 第883話 ダイちゃんが、 「あいつもモンスターじゃないの? なんで人間なんかの味方してるんだよ。」 大ちゃんは、 「もうダイちゃんは完全にモンスター側のセリフだね・・。」 すると一緒に空中についてきた魔王が、 「あれはこの遺跡を守っていた巨人族だ。 この遺跡は人間をモンスターから守るために作られたんだ。 それを守ってるやつが人間の味方するのは当然だな。」 ダイちゃんは、 「他人事みたいに説明しないでよ。 あんなやつが出てくるなんて聞いてないよ。」 魔王は、 「あわてることはない。 体は巨大だが、レベルはお前たちよりほんの少し高いだけだ。 うまく協力すれば倒せるだろう。」 部長は、 「うまく協力するって言ってもなぁ。 だいたい、自分たちの能力がどんなものなのかすらほとんどわかってないのに。」 ダイちゃんが、 「ところでさ、あいつ倒せばクリアなの?」 魔王は、 「いや、あいつはリーダーじゃない。 リーダーはこの遺跡の一番奥にいる人間だ。」 ダイちゃんは、 「なんだ、あいつを倒せばまた強くなるわけじゃないのか。 まぁ、どっちにしても僕があっという間に倒しちゃうけどね。」 そのとき、遺跡の巨人がダイちゃんに向かって魔法を放った。 「ミニミニ!!」 シュルルルル・・・・ 魔法をくらったダイちゃんがどんどん縮んでいく。 とうとう普通の人間サイズまで縮んだダイちゃんを、大ちゃんが手で受け止めた。 ダイちゃんは、 「どうなってるんだよ。 急に小さくなるなんて。」 大ちゃんは、 「あの巨人の魔法にやられたみたい。」 魔王は、 「あの魔法だけは気をつけろ。 当たると小さくなるだけじゃなくレベルも1にされる。」 第884話 ベルが、 「外にいるのはあいつ1体だけのようだ。」 部長が、 「うーん、とにかくMP消費の少ない攻撃魔法を集中攻撃しよう。」 大ちゃんに拾われたばかりのダイちゃんは、 「んもう、まどろっこしいなぁ……やられてなければもっといい方法が あるはずなんだけど……。」 「こっちが攻撃すれば、あいつもそれを防ぐのに魔法を使うだろう。 こちらには攻撃しづらくなる……。」 ニショブが言うと魔王が、 「それもいいが、攻撃してくるのはやつだけではないぞ。」 空中要塞に取り付けられた砲台が、部長たちを狙っている。部長は、 「何とか早めに近づいて要塞に降りないとまずいな。」 ベルは、 「とにかくあいつと砲台を攻撃だ。」 「わかった。ホーミングショットB!」 「ホーミングショットB!」 ダイちゃん以外全員が魔法攻撃を始めた。 −ボボーン− 砲台のいくつかは魔法攻撃によって破壊できた。一方空中要塞を 守る巨人にはHPは確実に削っているがなかなか倒せない。それでも 部長たちは砲台や空中要塞を守る巨人の攻撃を避けながらなんとか 空中要塞の上に降りたつことができた。 「ヨシッ!空中要塞の上に降りられたぞ。もう砲台からは 攻撃されない。」 部長は言った。すると大ちゃんの手のひらから飛び降りたダイちゃんは、 「そうだみんなが攻撃しているうちにここのリーダーを探してくるよ。 この要塞に入れるのは僕だけだからね。」 第885話 大ちゃんは心配そうに、 「でも、今のダイちゃんはレベルが1にされてるんだよ。 中に普通の人間しかいなくても、レベル1じゃやばいんじゃない?」 すると魔王は、 「やつが使ったミニミニという魔法は時間がたてば徐々に元に戻っていく。 レベルも体のサイズもな。 要塞に入ってしばらくは隠れながら進んで、ある程度元に戻ったら いっきに突っ込んでいくのがいいだろう。」 ダイちゃんは、 「なんだ、だんだん元に戻れるのか。 そういえばさっきよりほんの少し大きくなったみたい。」 大ちゃんも、 「ほんとだ、レベルが2になってる。」 魔王は、 「30分もすれば完全に元に戻れるだろう。」 ダイちゃんは、 「30分か。 早くしないと中に入れなくなっちゃうな。 じゃ、行ってくる。」 ダイちゃんは空中要塞に入っていった。 第886話 ダイちゃんは要塞の中を進んでいく。 「うーん、思ったより広いな。リーダーどころか、誰にも出会わないし。」 しばらく進んでいくと、 「いたっ!」 ダイちゃんは頭を天井にぶつけてしまった。 「何で天井がこんなに低い……。そうか、確か時間がたつと 元に戻っていくんだった。レベルを確認しよう。」 そのとき、 「誰だ!そこにいるのは!」 要塞の中の兵士がダイちゃんに声をかけた。身長の戻りかけた ダイちゃんの半分くらいの身長だ。ダイちゃんは、 「このくらいなら簡単に倒せそうだ。おい、お前らのリーダーは どこにいるか教えろ。」 「どこから来たのかわからない、中途半端にでかいやつなんかに 教えるわけないだろ。ここから出て行け。」 「そんなこと言ってもお前一人くらい簡単にやっつけられるよー。」 そう言っているうちにどこから出てくるのか、あちらこちらから 何十人もの兵士が出てきた。ダイちゃんは、 「エー、こんなにいるノー、なんかやっつけるのめんどくさいなー。」 そのとき、 −バリッ− ダイちゃんがさらに大きくなり、頭が天井を突き破り、上の階に出る。 「なんなんだよこれ。そうだ、このくらいのサイズになったら、 自分で壁を壊して探しに行こう。」 −バリバリバリ− ダイちゃんは周りの壁や床や天井を壊し始めた。 第887話 ダイちゃんはそんなつもりはないが、床や壁を破壊して進んでるうちに 足元の兵士たちをどんどん潰していった。 「壁を潰して進めるようになったのはいいけど、 ぐちゃぐちゃになってどっち行けばいいのかわからないな。」 ダイちゃんが強引に壁を破壊してしまったため、ダンジョンのように 入り組んでた空中要塞内が通路なのかなんなのかわからないくらいに 潰れてしまっていた。 「それにさっきより元に戻るスピードが早くなったような。」 ダイちゃんがかけられた魔法「ミニミニ」。 この魔法にはもうひとつ特徴があって、この状態で敵を倒すと 元に戻るスピードが上がるのだ。ダイちゃんは要塞内を破壊しながら 進んでいるとき、大量の兵士たちも巻き込んで潰していた。 つまり敵を倒していたことになって、元に戻るスピードが 大幅に上がってしまったのだ。普通ならうれしいことなのだが、 狭い要塞内を動き回るには大きすぎる体は逆に不便だった。 それでもダイちゃんは進むしかない。 すると、かなり広いフロアに出た。 その奥にはちょっと立派な扉が見える。 明らかにあそこにリーダーがいますって感じだ。 「あそこか。」 ダイちゃんはその扉の方に進もうとした。 が、広いはずのフロアにダイちゃんの体がはまり込んでしまって 詰まってしまった。リーダーの部屋が近いせいか、この辺りの壁や 天井は破壊できないようになっていたのだ。だから、 そのフロアの面積より巨大化してしまったダイちゃんは 身動きできなくなってしまった。 「くそー、もう目の前に見えてるのにー。」 第888話 敵を倒しても巨大は進むが、そのままでも元のサイズに戻っていくので この状態でもダイちゃんの巨大化は進んでいく。 「なんだよー。」 ダイちゃんから見れば閉じ込められた狭い部屋がさらに少しずつ 狭くなっていくようなもの。トラップの定番で天井が降りてきて侵入者を 押しつぶしてしまうというまさにあれにかかった状態なのだ。 それが天井だけではなく四方の壁まで迫ってくる。 リーダーの部屋らしい扉が自分の目の前にあるのに動けないどころか 周りの天井や壁に押しつぶされそうになっているのだ。ダイちゃんは、 「なんかこれ、めちゃくちゃやばい状態じゃないか、どうなるんだ……。」 -ミシッ、ミシッ- どこからともなくそこらじゅうから何かがきしむような変な音がしてくる。 すでにダイちゃんはさらに巨大化が進み、苦しくて話すもの難しい状態だ。 (痛いし、苦しいし、もうだめだー) 話すことの出来ないダイちゃんはそう思った。しかし普通では 壊れないはずの要塞の床や天井も、限界が来ていた。そして、 -ミシッ、ミシッ、バリバリ- ついに周りの壁や天井がダイちゃんの巨大化に耐え切れず 破壊されてしまった。 さて、一方要塞の上では部長たちと巨人の戦いは続いていた。ベルが、 「そろそろMPが心配だぞ。」 部長が、 「もう少しで倒せそうなんだが。」 そのときである。 −ズドドドドーン− ものすごい音が足元で響き、要塞全体が大きく揺れた。 第889話 要塞の天井を突き破りながら、中からダイちゃんが現れたのだ。 部長が、 「な、なんだ。 ダイちゃんだったのか。 もう1体巨人が出てきたのかと思って、ちょっとびびったぞ。」 大ちゃんも、 「もう完全に元に戻れたんだね。 魔王さんが言ってた時間より、ずいぶん早いけど。」 魔王は、 「ああ、敵を倒すと元に戻るスピードが早くなることは言ってなかったな。」 部長が、 「ところで、リーダーは倒せたのか? まぁ、まだ俺たちがレベルアップできてないってことは倒せてないんだろうけど。」 ダイちゃんは、 「リーダーがいそうな扉は見つけたんだけど、 僕の巨大化が早すぎて中で詰まっちゃって大変だったんだよ! 30分かかるって言ってたのに、まだ10分くらいしかたってないし。」 大ちゃんは、 「でも元に戻れたんだし、リーダーの居場所もわかったんでしょ。」 部長も、 「そうだ、さっさとクリアしてレベルアップだ。 そうすればあんな巨人敵じゃない。」 ダイちゃんは、 「そうだな、確かこの辺に扉が・・・。 あったあった。」 ダイちゃんは突き破った天井から足元を見下ろして、さっきの扉を見つけた。 「よし、手を突っ込んで掴み出してやる。」 ダイちゃんは頑丈そうな扉を簡単に手で突き破って中を探った。 中は思ったより狭く、手を少し動かすだけで部屋の全体を探れた。 が、リーダーがいない。 「しまった。 逃げられたかも!」 第890話 そのときベルが、 「あ、あぶないっ!」 巨人がダイちゃんのほうへ向かっていたのだ。ダイちゃんは、 「くそっ!また小さくされてたまるか、せっかく元に戻ったのに。」 −ズドドドーン− その直後、部長たちの足元で大きな爆発音がして要塞全体が大きく揺れた。 巨人はバランスを崩し、逆に部長たちの方向へ倒れ掛かった。部長は、 「今度はこっちが危ない。逃げろ!」 −ズドドーン− 「危なかったな。」 ニショブが言う。なんとか全員倒れた巨人の下敷きになるのを免れた。 −シュウウウウ− 巨人の体から湯気のようなものが出始めたかと思うと、 巨人の体はだんだん薄くなって消えてしまった。魔王は、 「やったな。おそらくHPがほぼなくなりかけていたのが さっき転んだダメージでゼロになったようだ。」 ダイちゃんは、 「それより早く逃げたリーダーを探さないと経験値もらえないぞ。」 部長は、 「そうだった。」 −ドドーン、ドカーン− 部長たちの足元では爆発音が続いている。 「いったい何が起こってるんだろう。 ダイちゃんはすでに出てきているのに。」 大ちゃんが言うと魔王が、 「うむ、おそらく要塞全体がダメージを受けたのだろう。」 ダイちゃんは、 「ここに出てくるまで中をあちこち壊しまくったからな。」 −ズバババババーン− 部長たちのすぐ近くで大きな爆発があり、要塞全体が揺れる。 爆発直後には巨大な穴が開き、そこから噴火口のように煙が出ている。 ベルが、 「早くここから避難しないとこのままここにいたら、 要塞そのものが爆発して巻き込まれるんじゃないか?」 ダイちゃんは、 「エエーッ、リーダーをまだ見つけていないのに……。」 第891話 魔王は、 「おそらくこの要塞の爆発に巻き込まれれば、 お前らの今の防御力とHPじゃ耐えられないだろうな。」 部長は、 「ってことは、このままここにいたらまずいってことじゃないか。」 ダイちゃんは、 「そんなこと言ったって、リーダー倒さないと僕の努力が水の泡になるじゃん。」 大ちゃんは、 「このまま爆発に巻き込まれたらどっちにしても水の泡だよ。 ここはとりあえず逃げた方がいいよ。」 部長も、 「そうだな、ここを逃しても生きていればレベルアップのチャンスはあるはずだ。 逃げるぞ。」 そして、全員ここに来るときに使ったスカイウィングで地上に戻った。 みんなが地上に着地して振り返ると同時ぐらいに空中要塞は大爆発を起こして落ちていった。 ダイちゃんが魔王に言った、 「なぁ、あの爆発でリーダーが死んでもレベルアップできないの?」 魔王は、 「空中要塞から受けたダメージということになるからな。 お前らが直接ダメージを与えて倒さんとクリアにはならん。」 ダイちゃんは、 「ちぇ、あの要塞だって僕が爆発させたようなもんなのに。」 そのとき大ちゃんが、 「うわっ! 虫が顔に・・・。 えいっ!」 パンッ・・・ 大ちゃんは、自分の顔に寄ってきた虫をとっさに叩き潰した。 大ちゃんは、 「あっ、でも今の僕のサイズで虫なんか見えるわけないよね・・・。 ってことは今のは・・・」 −チャンチャラリロリーン♪− [リーダーを倒し、空中要塞を完全に壊滅させました。パーティは 経験値を得ました。] 大ちゃんは、 「ええー、もしかして今のが??」 魔王も、 「リーダーも空中要塞から脱出しようとしたんだな。 それをお前が虫と間違えて潰したんだろう。」 ダイちゃんは、 「またそんなくだらないクリアの仕方で・・・」 第892話 魔王は、 「そんなことはないぞ。運も実力のうちだ。幸運が味方してくれる。」 部長は、 「うーむ、とはいうものの勇者はこうはいかんだろう。」 ダイちゃんは、 「て、言うか勇者はどこにいるんだ?」 すると魔王は、 「これだけのことをやったんだ。ほおっておいても勇者の方から 来てくれるだろう。」 ニショブが、 「む、誰かが向こうからやってくるようだ。」 大ちゃんが 「ええっ、いくらなんでもちょっと早すぎるような……。」 ベルは、 「よく見ると、かなりの人数のようだが。」 大ちゃんは、 「勇者のパーティなのかなぁ。」 部長は、 「それにしては多すぎるぞ。あいつら何者だ?」 部長たちに近づいてくる集団は少なくとも数十人はいる。 よく見るとサイズもさまざまで部長たちの半分くらいのものもいれば、 倍以上のものもいた。それを見た魔王は、 「やつらはこのあたりを狙っていたモンスターの集団だ。 今まで空中要塞のおかげで手が出せなかったのだが、 お前たちが破壊したのを知って集まってきたのだろう。」 ダイちゃんは、 「て、言うことはこいつら子分になるわけ?」 魔王は、 「まあ、そういうことになるだろうな。」 ダイちゃんは、 「よし、おまえら、ついてこい!みんなであの生意気な勇者ってやつを 倒しに行くぞ!!」 「「「オオーッ」」」 周りから歓声が響いた。部長は、 「完全にモンスターの軍団になってしまったな。」 ベルは、 「勇者を倒すためだ。味方は多いほうがいいだろう。」 こうして大集団となった部長たちは行く先々で町や村を次々と破壊して 経験地を稼いでいった。もちろん、彼らのとおった後は草一本も生えない 荒地となると恐れられた。こんな調子で進んでいったモンスターの軍団だが …… 「おい、先頭の連中が変だぞ。」 最初の異変に気づいたのはベルだった。ダイちゃんは、 「あれ?先に行ってるやつあんなに少なかったっけ?」 そう言っているうちに先に進んでいるモンスターのメンバーが次々と消えていく。 消えたのではない。倒されているのだ。 「もしや、こんなことが出来るやつは……。」 部長が言うと魔王は、 「勇者だ……。」 第893話 ダイちゃんは、 「でもあれだけレベルアップしたんだし、今の僕たちの強さなら楽勝なんじゃない?」 魔王は、 「いやいや。 レベルだけを見ればお前たちとかわらないだろうが、勇者の強さはレベルでは計り知れん。 お前らのように一夜漬けでレベルアップしたのとはわけが違う。 しかも強力な装備品や魔法も備えている。 今のお前らが全員でかかってギリギリ倒せるかどうかってところだ。」 ダイちゃんは、 「ええー、これで負けたらさっきのレベルアップは意味ないってことじゃん。」 部長は、 「いや、俺たちは負けるわけにはいかん。 ギリギリだろうがなんだろうが、絶対勝つんだ。」 ダイちゃんは、 「けどさー、あの勇者はギリギリ勝てるとして、石本呼び出されたらどうするの?」 魔王は、 「ボスになったというお前らの仲間のことか。 あそこのボスになった者は、このわしでも倒すのは無理だ。 呼び出された時点であきらめろ。」 部長は、 「あきらめろって、石本にやられて終わりってことか? それは絶対に嫌だ。」 魔王は、 「そうは言っても、あいつはこの世界で最強なんだ。 たとえ奇跡が起こっても倒すのは無理だ。」 部長は、 「とにかく、石本だけは呼び出させるな。」 魔王は、 「じゃ、わしはこの辺で城に戻る。 ラスボスであるわしが、こんなとこで勇者に出会うわけにいかんからな。 あとは頼んだぞ。」 第894話 魔王はそう言って姿を消した。ダイちゃんは、 「まったく……。もうちょっとサポートしてくれてもよかったのに……。」 部長は、 「難しいかもしれないが、なるだけ速攻で勇者を倒すんだ。 石本を呼び出されたら終わりだからな。」 そうしているうちにも前列のメンバーはどんどん消えていく。 モンスター軍団全体に不安が広がっていき、隊列を離れるものも出始めた。 ベルが、 「そろそろ見えるんじゃないか……。」 部長は、 「やつの姿が見えたら、全員で魔法攻撃だ。」 ダイちゃんは、 「合図するのは僕だからね。」 ニショブが、 「見えたぞ!!」 ダイちゃんは、 「3、2、1、いけぇぇぇぇっ!!」 部長たちはもちろん、モンスター軍団の中で魔法が使えるメンバーも 一斉に勇者に向けて攻撃魔法を発射した。 −ズドドドドドーン− 前方に巨大な土煙が上がり、周りに広がった。部長は、 「やったか?」 大ちゃんは、 「うまく行ったと思うけど、どうかなぁ。」 ダイちゃんは、 「でもこういう時は結構敵は無事だったりするんだよなぁ。」 土煙が消え、部長たちとかなり勇者に倒されたり、逃げたりして 数が減ってしまったモンスター軍団の前には巨大な穴が出来ていた。 部長は、 「勇者の姿が見えない。倒した……のか?」 第895話 土煙は完全に消え、視界がはっきりとした。 それでも勇者はどこにも見当たらない。 ダイちゃんは、 「どこにもいないな。 ほんとに倒せたのか。」 部長は、 「あの巨大な穴はどうだ? あそこに隠れてるんじゃないか?」 大ちゃんは、 「穴は大きいけど、深さはそれほどないし。 僕たちの魔法で掘れただけみたいだよ。」 すると後ろから突然誰かが話しかけてきた。 「あのー。 私、勇者が魔法で消し飛ぶとこ見ましたよ。 この目でちゃんと。 私たちは勇者に勝ったんですよ。」 話しかけてきたのはモンスターの1人だった。 ダイちゃんは、 「なんだ、やっぱり倒しちゃったんだ。 あっけないなー。 もうちょっと手ごたえあると思ってたのに。」 大ちゃんは、 「でも変じゃない? 勇者を倒したなら僕たちのレベルが上がったりしないのかな。 勇者を倒したって文字が出たりもしないし。」 部長も、 「確かに今までの流れだとそうだよな。 ちょっとしたことでも文字が出てきてたのに、勇者を倒しても何もない ってのはおかしいな。」 するとさっき話しかけてきたモンスターは、 「ああ、それなら変じゃないですよ。 勇者はこの世界では特別な存在だから、そういうもんなんです。」 部長は、 「そういうもんなのか。 ってことは、俺たちは元の世界に戻れるってことだよな。」 だがそのモンスター、実は変化の薬でモンスターに化けている勇者だった。 第896話 「特にあなたたちの活躍はすばらしかったですよ。出来ればくわしくお聞き したいのですが……。」 モンスターに化けた勇者が部長たちに言う。そのとき、 「俺たちつ、ついに勇者を倒したんだ。」 「今夜は宴会だー。」 他のモンスターたちが言い始めた。ベルは、 「宴会か……どうする?」 「ウーン……そうだなぁ。」 部長が言うとすぐそばにいたモンスターが、 「何硬いこと言ってるんだ。こんなめでたいことはないぞ。」 ダイちゃんは、 「どうせ僕たち帰っちゃうんだし、それまで楽しめることがあったら 楽しんだほうがいいんじゃない?」 モンスターに化けた勇者も、 「いいですね。やりましょうよ。出来ればメンバーは 多いほうがいいですよ。」 そしてその夜、巨大な洞窟にモンスターたちが集まっていた。 以前からそこはモンスターたちの集会所として使われていたようである。 「それにしてもみんなどこから食材を調達したんだ?」 ニショブが言うと部長は、 「それもあるがメッセージはともかく俺たちをここに送り込んだ 堕天使からも何の連絡もないとは……。」 そこにモンスターの一人がやってきて、 「おい、そんな隅っこで固まってないで……。今から面白いことがあるから こっちへ来い。」 「面白いことって、かくし芸でも誰かやるのか?」 部長が言うとそのモンスターは、 「人間の踊り食いだ……。」 第897話 それを聞いたダイちゃんは、 「おっ、それ面白そう! こういう機会しかそんなことできないし、行こう。」 大ちゃんは、 「えー、人を食べるなんてダメだよ。 面白くないよ。」 ダイちゃんは、 「どうせゲームの中の人なんだしいいじゃん。」 部長も、 「まぁ、このゲームの世界にいるのもあと少しだ。 少しくらいはめをはずすのもいいだろう。」 とりあえずみんな、モンスターに呼ばれたほうに行くことにした。 モンスターたちが集まる中心に、 かごのような物に大勢の人たちが閉じ込められていた。 そしてモンスターの1人がかごに手を伸ばし、 中から1人の人間を取り出した。 「ぐへへ、まずはこいつからだ。 誰が食う?」 周りのモンスターたちが騒ぎ出した。 「おれだおれ!」 「こっちによこせー」 「早く食わせろ!」 よだれをだらだら垂らしたモンスターたちが 摘み上げられた人間に手を出してくる。 「いやだ、助けてくれー。 食われたくないよー。」 摘み上げられている人も必死でもがいて助けを求めている。 が、助けが来るわけもない。 「よし、一番活躍したお前たちから食ってくれ。」 人間を摘んでいたモンスターが部長たちの方に人間をさしだしてきた。 「ん? ああ、そうか。 じゃあ。」 部長はとりあえず受け取ったが、 さすがに何の罪もない人間を口に放り込むのは気が引ける。 「まぁ、人間って言ってもゲームのデータだ。 罪悪感を感じる必要もないか。」 部長は受け取った人間を口の上に持って行き、あーんと巨大な口を開いた。 そのとき、一人のモンスターと目が合った。 部長たちは気づいてないが、勇者が化けているモンスターだ。 第898話 部長に食べられそうになっている人間は、つままれたまま 必死で暴れている。勇者の化けたモンスターの 視線に気づくことなく部長は、 「悪いな。少しだけだが俺の栄養になってもらうぜ。」 そのときである。 -ドガッシャーン- 参加したモンスターの誰かがうっかり物を落としたらしい。 そのあまりの大きな音に周りのモンスターたちが一斉に振り向く。 もちろん部長もだ。そのとき摘んでいた人間を落としてしまった。 本来なら下に落ちてしまった人間は大変なことになってしまうのだが、 そこはゲームの中の世界、下に落ちた瞬間消えてしまった。 それを見ていたダイちゃんは、 「んもう。まどろっこしいことをやってるから失敗するんだ。 僕がお手本を見せてあげるから。」 「いよっ!まってましたー。」 そばにいたモンスターの一人が言う。が、ダイちゃんは 勇者の化けたモンスターの視線に気づいた。ダイちゃんは、 「なんだ。お前も食べたいのか?」 「え、いや、残念ですが今おなかの調子が悪くて……。」 「ふーん、そうなの?」 ダイちゃんは一人の人間を摘んで放り投げ、口の中に入れようとした。 が、わずかにそれて口の中に入らなかった。ダイちゃんの口の中に 入り損ねた人間は落ちまいとダイちゃんの口びるに必死でつかまっていた。 ダイちゃんは舌を出してその人間を口の中に入れようとした。そのとき、 勇者の化けたモンスターがダイちゃんに向かって攻撃の態勢を とろうとしているのに気づかなかった。 第899話 「ファイヤーバズーカ!!」 勇者が化けているモンスターが突然魔法を放った。 その魔法は一直線にダイちゃんの顔に飛んでいき、直撃した。 周りのモンスターの騒がしかった声がピタッと止まった。 ダイちゃんは、 「いたた、何するんだよ!! 急に!」 すると、勇者が化けているモンスターは、 「あ、すいません。 唇についていた人間があなたに即死効果のあるアイテムを使おうと してるのが見えたもので。」 ダイちゃんは、 「そんなアイテムがあるの? つまり僕を助けるためにやったってこと?」 勇者が化けているモンスターは、 「はい、当然ですよ。」 (なるほど、中レベルの魔法じゃほとんどダメージ受けていない。 こいつらそうとうレベルを上げてきたようだな。 まともに戦えばこっちもやばそうだ。 戦力にはならないだろうが、あいつを呼び出すか。 あいつを呼び出して隙ができたときいっきに攻撃する。) 「あ、そうだ。 ここに私の仲間を呼んでもいいでしょうか? けっこう楽しいやつなんで盛り上がりますよ。」 ダイちゃんは、 「助けてくれたのはありがたいけど、もうちょっとましな方法にしてよね。 で、仲間ってどんなやつ?」 勇者の化けているモンスターは、 「一目見ればわかりますよ、そいつがどんなやつか。」 第900話 さて、そのころ隠しダンジョンでは…… 「オイこら、ちゃんと働け!サボるやつは食っちまうぞ!!」 ダンジョンのボスとなった石本は手下のモンスターたちに命令して、 ダンジョンの改装工事をやっていた。特に小柄なモンスターたちは、 ちょっとでも逆らえば本当に食べられてしまいかねないので 震えながら働いていた。手下のモンスターたちは、 「ボスってホント怖いよなぁ....」 「何度食べられそうになったか....」 「ああ....どっかに行ってくれればいいのに....。」 手下のモンスターたちがそう思ったとき、石本の姿が消えた。 −ズッドーン− 再びこちらはモンスターたちが集まっている巨大な洞窟、 突然大音響とともにひときわ大きなモンスターが現れた。 「うわ、なんだ!?」 「なんかでかいのきたー。」 集まっていたモンスターたちが騒ぎ始めた。が、 一番驚いたのは呼び出した勇者が化けているモンスター 自身だった。勇者が化けているモンスターは、 (あいつあんなにでかかったか?それに何だあの殺気...) 石本は勇者が化けているモンスターを見下ろし、 「俺様を呼び出しのはお前か。」 勇者が化けているモンスターは、 「ああ、そうだ。」 石本は、 「まあ、あんなダンジョンにずっといたらストレスがたまるからな。 ん...。」 そう言った後部長たちを見つけて、 「いつぞやダンジョンで見かけた連中じゃないか。以前よりちょっとは 強くなったようだが、まさかそのくらいで俺様を倒そうなんて思って ないだろうな。」 部長は石本を見上げて、 「オイ、なんで石本がいきなりこんなところに来るんだ...。」
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