|
|
|
第861話 大ちゃんが、 「あれ? でも変だな。 僕たちはこの世界では最小族って言われてたってことは、僕たちのサイズが最小なはずなのに。」 するとベルが、 「なるほど、わかったような気がする。 神様が私たちを吸い込む前に何をしていたか思い出してみてくれ。」 ダイちゃんが、 「えーと、天使たちを集めて調べてたんだろ?」 部長も、 「ああ。 怪しい連中、つまり俺たちをかくまっている天使がいないかどうかをな。」 ベルが、 「そうだ、そのとき神様は自分にとっては小さすぎる天使たちを 調べやすくするために体のサイズを縮めただろ。」 大ちゃんも、 「うん、その後に吸い込まれたんだよね。」 ベルは、 「そして私たちを吸い込んだ後、神様は天使たちを調べ終えて元のサイズに巨大化したんだろう。 それで、神様の体の中にいた私たちも神様の体の巨大化とともに巨大化していたということだ。」 部長が、 「なるほどー。 つまり今の俺たちは最小族のサイズじゃなくなったってことか。」 ダイちゃんが、 「じゃあここから出るのは簡単だね。 天使の審査に通ればいいんだろ。」 すると元巨人が、 「そう簡単にはいかないと思うぞ。 お前らが神様が探しているっていう連中なんだろ? 天使たちも警戒してるだろうし、バレたら即潰されるぞ。」 第862話 「とはいうものの、このまま俺たち以外誰もいないような場所にいたって 仕方がない。」 部長が言うとニショブが、 「確かに情報がほしい。さきほどのこびとも見失ってしまった。」 するとダイちゃんが、 「なら向こうのほうに大きな建物らしいものが見えるよ。 町でもあるんじゃない? 」 元巨人は、 「大丈夫か?まさか町についたとたん、お尋ね者になっていたなんてのは 困るぞ。」 「町が近くなってきたら、先に様子を見てこよう。まさか後から合流した 私までがお尋ね者になっていることはないだろう。」 アマーが言った。 「すんなり町に入れてよかったね。」 大ちゃんが言うとベルは、 「思ったより大きな町のようだし、住民のサイズも私たちと同じような 感じだな。」 「大集団で行動するより、いくつかのグループに分かれませんか?」 博士が言うとフテンが、 「久しぶりに出番が来たと思ったらそれか。まあいい。」 アマーが、 「私も一緒に行きます。」 博士たちが行った後に、巨人も 「うーむ、なら俺は似たようなサイズの住人を探すか。」 「とりあえず天使のいるところを探さないとね。」 ダイちゃんが言うと元巨人は、 「そうは簡単にいかないぞ。」 部長が、 「確かに神様に吸い込まれるまるまでにいた場所とは様子が 違うようだしな。」 元巨人は、 「まったく、何も知らないんだな。天使にいつも会えるようになるには 試験にパスしないといけないんだ。」 「えエー、そんなのあるの?いやだなぁ。」 石本が言うとダイちゃんは、 「なんだ、まだいたのか、しばらく見なかったからとっくに行方不明に なったと思ってた。」 「ひどーい。」 石本が言うと大ちゃんは、 「試験って、どんなことやるの?」 元巨人は、 「まあ、試験といっても実技試験だけだ。」 石本は、 「あゝ、何か安心した。」 元巨人は、 「多分あれが試験会場だろう。試験を受けること自体はそれほど難しくない。 でも下手をすると命を落としかねない。」 「それでは、試験を受ける皆さんは全員集まりましたか?」 試験官は部長たちを含めた受験者たちに言った。そのときである。 −ズン、ズン、ズシーン− 「すまない、遅れたが大丈夫か?」 受験者たちの中に、巨人が一人遅れてきた。試験官は遅れてきた巨人を見上げ、 「大丈夫ですよ。それでは全員そろったようなので試験を始めます。 これから30分全員で戦って、無事だった人が合格です。」 部長が、 「と、言うことはあいつも戦うのか?」 ベルが、 「大変なことになりそうだな。」 遅れてきた巨人は部長たちを見下ろし、 「今回の試験はラッキーだな。踏み潰されないよう気をつけろよ。」 第863話 部長が、 「俺たちと同じサイズのやつらには、相撲部の俺たちが負ける気はしないが。 あいつだけは普通に勝つのは無理か。」 ダイちゃんも、 「何であいつだけあんなにでかいんだよー。 僕だって巨大化さえできれば30分どころか3秒で片付けられるのに。」 すると元巨人が、 「ここが天国と言う名の監獄だってことは知ってるだろう。 犯した犯罪の重さによってここでのサイズが決まるんだ。 あいつはかなり軽い罪でここに入れられたんだろう。」 石本がそれを聞いて、 「犯罪を犯して巨人になれるなんて。 それなら僕いくらでも犯しちゃうよ。」 部長が、 「ばか! 調子に乗るな。 お前を縮めて俺が巨人の恐ろしさを思い知らせてやってもいいんだぞ。」 するとダイちゃんが、 「それだ! 僕たちが大きくなれないならあいつを縮めればいいんだ。」 部長も、 「なるほど。 だが、大ちゃんの能力だって抑えられてるんだ。 大ちゃん、できそうか?」 大ちゃんは、 「うん、たぶんあのくらいのサイズならギリギリ効果があると思う。」 遅れてきた巨人はしばらく他の受験者たちを追い回して楽しんでいたが、 そろそろ飽きてきたようだった。 「さてと、そろそろ試験終わらせるか。 お前らも俺の脚の汚れとなって元の世界にいけるんだ。 俺に感謝しろよ。」 ちょうど目が合った部長の方に足を上げて踏み潰そうとしてきた。 部長が、 「大ちゃん、お願い。」 「うん。」 遅れてきた巨人が足を踏み降ろそうとした瞬間、パッと姿が消えた。 部長が自分の足元を見ると、小さくなった遅れてきた巨人がいた。 何が起こったのかわからずきょろきょろしていたが、 すぐに部長たちに気づいて見上げた。 「な、なんだ。 どうなってるんだ? なんでお前らの方がでかくなってるんだ?」 ダイちゃんは、 「そんなの知らないよ。 お前がかってに縮んだんだろ。 僕の足の汚れにして元の世界に連れてってやるよ。」 そう言ってダイちゃんが片足を上げた。 すると大ちゃんが、 「待ってダイちゃん。 別に潰さなくても。」 ダイちゃんは、 「ほんとに甘いなぁ。 仕方ない。 試験官さーん、こんなところに最小族が紛れ込んでますよー。」 試験官はダイちゃんの方に駆け寄ってきた。 「なに、最小族だと? どっから入り込んだんだ。」 試験官は小さくなった巨人を摘みあげた。 縮んだ遅れてきた巨人は、試験官に摘まれながら騒いでいる。 「何かの間違いだ! 俺は最小族なんかじゃないぞ。 こいつらが何かしたんだ。 助けてくれー!」 試験官はそのままポケットに入れてしまった。 「よく見つけてくれたな。 試験を続行してくれ。」 そう言って戻っていった。 部長が、 「これであとのやつらは楽勝だな。」 第864話 「いや、よかったな。全員無事合格できて。」 ベルが言うと元巨人は、 「これからが大変なんだぞ。俺もこのあとどんなに苦労したか……。」 するとダイちゃんが、 「苦労話はいいから、これからどうすればいいのか教えてよ。」 「天使のいるところへいく。」 「なんだ。当たり前ジャン。」 「そこまでが大変なんだ。この町には天使が来ないから、 天使の来る町に移動しないといけない。」 部長が元巨人に、 「なぜこの町に天使が来ないことがわかるんだ?」 元巨人は、 「試験場と天使が来る場所は同じ町には作れないことになっている。 試験に合格して天使に会うには、天使の来る町まで移動しないと いけない。」 そのときである。 「おい、お前たち、天使に会いたいのか?」 突然部長たちの上から声がした。部長達が声のしたほうを見上げると、 巨人が部長たちを見下ろしていた。巨人は、 「天使のいる町まで行く用事があるから、連れて行ってやってもいい。」 すると石本が、 「やったね。これで天使にあえる。」 ニショブが、 「うーむ。信用して……うわっ!」 巨人は突然持っていた袋に部長たちをつかんで次々と放り込んだ。 袋を持った巨人は、 「今日は遅いから明日出発しよう。俺の家に泊めてやる。」 袋の中で石本が、 「よカッター。ちょっと乱暴だけどなんとかなりそうだね。」 部長は、 「天使の来る町へ連れて行ってくれるのならいいが、 もし違うのなら大変だぞ。」 袋を持った巨人は、どこかへ向かって歩き始めた。 第865話 「着いたぞ。 俺の家だ。」 部長たちの入った袋を持った巨人が言った。 そこには巨大な木造の家がそびえたっていた。 今の部長たちも最小族から見れば巨人のはずだが、 また最小族に戻ってしまったような錯覚をしてしまうほど大きかった。 袋を持った巨人はそのままその家に入っていった。 中は巨大なベッドや棚が置かれてるだけで、巨人にとっては狭い家のようだ。 「天使のとこには明日連れてってやる。 ここでおとなしくしてろ。 俺は寝る。」 巨人は袋を棚の上に置いてベッドで寝てしまった。 部長が、 「ちょっと俺たちを袋から出してから・・・・。 もう寝てやがる。」 ダイちゃんも、 「袋の中で寝ろってこと? 自分はベッドで寝てるのに、なんか腹が立つ。」 大ちゃんは、 「でも天使のところに連れてってくれるんだし、我慢しなきゃ。」 石本は、 「でもこんな袋に閉じ込めるなんて、あやしいよ。 さっきの巨人みたいに縮めちゃえば?」 部長が、 「お前が言うな。 それにあいつを縮めてしまったら天使のところに行けないだろうが!」 大ちゃんも、 「それに、僕の能力もかなりおさえられてるから袋ごしじゃ無理かも。」 ベルが、 「とにかく明日まで体を休めよう。」 そして次の日の朝。 巨人は部長たちの入ったままの袋を持って出かけた。 巨人の足でもずいぶん歩いたあと、どこかにたどり着いた。 そこには袋を持った巨人すらこびとに見えてしまうほどの家が建っていた。 巨人はその巨大すぎる家のドアの下のほうにある、 その家にとっては小さなドアから中に入っていった。 「おーい。 いるんだろ。 お前が欲しがってたサイズのやつ捕まえてきてやったぞ。」 すると奥からズシーンズシーンと地響きをたてながら とてつもなく巨大な男が近づいてきた。 「ありがとさん。 そこらへんに置いといてくれ。」 すると袋を持った巨人は、 「おいおい、報酬が先だろ。」 袋の中でその話を聞いていた部長が、 「おい、捕まえたってどういうことだ!」 ダイちゃんも、 「天使のとこに連れて行くってのはやっぱり嘘だったんだな!」 すると袋を持った巨人は、 「嘘なんかついてないぞ。 あいつは天使じゃないか。 まぁ、天使と言っても堕天使だけどな。」 部長が、 「堕天使?」 元巨人が、 「そういえば聞いたことがある。 天使の中には、神様の指示に逆らって勝手に行動しているやつがいるって。 それが堕天使なのかも。」 袋を持った巨人は堕天使に報酬を受け取って、袋を地面に置いた。 「俺は報酬をもらったから、もうお前らに用はない。 あとは堕天使様と話し合ってくれ。 じゃあな。」 そう言って帰っていってしまった。 第866話 「まったく、話し合えって、俺たちの声があんなでかいやつにわかるのか?」 部長が言うとその声が聞こえたのかどうかわからないが、 堕天使は、 「うーん、ちょうどいいサイズだ。なーに、心配するな。 ちょっと趣味に付き合ってもらうだけだ。」 その直後、部長たちの入れられた袋はとんでもない速度で 持ち上げられる。堕天使は実はかなり慎重に取り扱っていたのだが、 部長たちにとっては失神しそうなくらいのとんでもない衝撃なのだ。 「ここがお前たちの新しい家だ。」 堕天使は部長たちの入った袋を置いて、どこかへ行ってしまった。 「いったいなんなんだ……。」 ダイちゃんが言うと元巨人は、 「趣味とか言っていたが、俺たちをペットとして飼うつもりか?」 石本は、 「ペットなんてそんなのやだよー。」 するとニショブは、 「ペットとして飼われるかどうか決まったわけじゃない。 とにかく周りを調べよう。」 部長たちは大ちゃんのテレポートで何とか袋の外へ出た。 外は巨大な壁で回りを囲まれていて、上は空ではなくおそらく堕天使の 家の天井であろう物が見えていた。ベルは、 「以前いれられた実験施設みたいだ。」 部長は、 「おい、石本、とりあえずその辺を調べて……。」 そのときにはすでに石本はどっかに行っていた。ダイちゃんは、 「まったく、肝心なときに役に立たないんだから。」 大ちゃんは、 「さっきまで一緒にいたのに、どこへ行ったんだろう。」 さて石本はというと、自分の足元を通りかかったこびとを追っかけて 捕まえ、みんなから見えないところに隠れていた。 「みんな探しに出かけたみたいだな。こんなおもちゃが居るんなら、 ペットでもなんだっていいや。」 石本に捕まったこびとは、 「どうか命だけはお助けを。いいものを差し上げますから。」 石本は、 「うーん、どうしようかなぁ。」 第867話 石本は捕まえたこびとをそのまま握ってしまった。 「僕にとってはこびと自体がいいものなんだよ。 こびといじめて遊べるなら、何にもいらないもん。」 石本は握った手を開いてみた。 こびとを潰したはずなのに、石本の手には何もついていなかった。 「あれ? 潰したはずなのに消えちゃった。 でも、潰した感触もなかったような・・・。 まぁいいや。 他のこびと探しに行こう。」 石本は部長たちと離れるように、こびとを探しに移動し始めた。 そして部長たちは、 「はやく石本を見つけないと、またあいつやっかいなことしでかすぞ。」 そのとき、どこからともなく大きな声が聞こえてきた。 さっきの堕天使の声だ。 「どうだ? その中の居心地は。 俺の手作りなんだぞ。 まぁ、その中で自由に暴れてくれ。 モンスターとしてな。」 ベルが、 「モンスター? いったいどういうことだ?」 堕天使が、 「その箱の中の世界は全部立体映像で映してあるんだ。 そして俺が何をしてるかというと、ゲーム(RPG)だ。 俺はその中の主人公を操作してゲームを楽しんでいる。」 ニショブは、 「こんなにリアルなのにゲームの中の立体映像だっていうのか?」 大ちゃんが、 「たしかに、物に触っても触った感触がないよ。」 部長も、 「ほんとだ。 掴めばちゃんと持ち上げられるのに、触ってる感触がまったくない。 ほんとに映像なのか。」 堕天使が、 「元は天使が最小族の街を調査するための道具なんだが、 それを俺がプログラムを改造してゲームをつくったってわけだ。」 部長が、 「なんでそんなことを!」 堕天使は、 「さっきも言っただろ。 俺の趣味だよ。 最初は俺もまじめに天使やってたけど、他人を元の世界に戻すかどうか 決めるだけで俺自身はずっとこの世界にいなきゃならないと思うと、 ばかばかしくなってきてな。」 ベルが、 「たしかに天使ってのは神様に縛られて自由がなさそうにも思えるが・・・」 ダイちゃんが、 「だからって僕たちを個人的な趣味に巻き込むなよ!」 堕天使は、 「お前らだってこのゲームを楽しめばいいだろ。 お前らはその中では巨大モンスターなんだから、 やろうと思えばこびとの街を襲ったりもできるぞ。」 部長が、 「こんな偽物の世界で楽しめるか! それに俺たちがモンスターってのも気にいらねぇ。」 堕天使は、 「主人公の勇者は俺が操作してんだから仕方ないだろ。 言っとくが、俺このゲーム今までやり込んでて勇者のレベルも かなり上がってるから、勇者に出会ったら気をつけた方がいいぞ。」 部長は、 「何を言ったって俺たちをゲームのモンスターにしたいらしいな。 じゃあ、こっちからも条件だ。その、お前が操作してるって言う 勇者を俺たちが倒せば元の世界に戻してもらおうか。 元天使なら、元の世界に戻す方法知ってるんだろう?」 堕天使は、 「ああ、知ってるぞ。 その方がお前たちもやる気が出るみたいだから、その条件をのんでやろう。 ただ、俺の勇者は相当強いぞ。こびと全員人質にするくらい 卑怯な手を使わないと勝てないだろうな。これはアドバイスだ。 じゃ、俺はゲームに集中するからお前らも自由に行動してくれ。」 ダイちゃんが、 「ほんとの天使じゃなかったけど、結果的には元の世界に戻れそうだね。」 大ちゃんが、 「でも勇者ってのを倒さないといけないんでしょ。 しかも相当強いって。」 部長が、 「とにかく、今は石本を探そう。」 第868話 一方、石本は…… 「さて、これからどうしようかなぁ〜」 ちなみに石本にも堕天使の話は聞こえていた。「 「ゲームの中の世界か。ちょっと物足りないけど、楽しめたらなんだって いいや……。」 再び部長たち。 「うーん、ここも相当広そうだからせめて二手に分かれて探したい ところだが……。」 部長が言うとベルが、 「勇者に出会ったときのことを考えると、分かれないで行動したほうが いいだろう。」 ダイちゃんが、 「先にそいつが石本を倒してくれればいいんだけどね。」 再びこちらは石本…… 「なんかおなかがすいてきたなぁ。そうだ、こびとを捕まえて 集めさせよう。」 そう言って石本は適当に歩き始めた。しばらく歩くと川があったので 川沿いに歩き始めた。 「あれ?」 石本は川の中に小さな船が浮かんでいるのを見つけた。船に乗っている こびとも石本に気づき、必死にこいで逃げようとしたが石本に船ごと 持ち上げられてしまった。船に乗っていたこびとは、 「お願いです。命だけは……。」 石本は、 「なんかさっきと同じようなことを……まあいいや、実はちょっと おなかがすいてるんだけど、何か食べられそうなもの持ってきて くれないかなー。持って来ないと……。」 石本は持っている船を傾けてこびとを口の中に落とそうとした。 「わっ、わかりましたぁー。しばらくおまちを……」 第869話 船の上のこびと達は急いで船の中に入っていき、両手いっぱいに食料を持って どんどん甲板に運びだした。 まるで早送りのようにこびとたちが出入りしてるうちに、 食料の山ができあがった。 「どうか、これでお許しを・・・」 石本は、 「こんな小さな船の中に、こんないっぱい食べ物が入ってたの? まぁいいや、いただきまーす。」 石本は食料の山を片手で掴んで口に放り込んだ。 「もぐもぐ・・・。 ん? あれ? 口に入れたはずなのに消えてる・・・。 もしかして食べ物も立体映像なの? こんなんじゃ、せっかく巨人になっても楽しめないよー。」 石本は手に持ってる船に力を入れた。 ミシミシといいながら船が少しずつ潰れていく。 「僕を満足させられなかった罰だ。 潰れろ!」 石本が船を握りつぶそうとしたそのときだった。 「待てっ! モンスターめ! その船を川に降ろせ!」 石本は声のした方を探した。 川岸に一人の男が立っていた。 石本は、 「何だお前。 こびとのくせにえらそうに。 わかった、船の前にお前から潰してやる。」 石本は船を川の端に置いて、その男の方に一歩近づいた。 よく見るとその男は他のこびととは違って、剣と盾を持っている。 「ははは、そんな爪楊枝の先みたいな剣で僕と戦う気なの? それとも歯の隙間でも掃除してくれるのかな?」 すると男は、 「お前みたいなザコモンスター、一撃で倒してやる!」 石本は、 「生意気なやつ。 じゃあその前に僕が一踏みで潰してやるよ。」 ズシーン!! 石本はそう言った直後に男の上に巨大な足を踏み降ろした。 「ふん。 こびとのくせにでかい口たたくからだ。」 石本は足をそっとどけてみた。 そこには男がぺちゃんこに潰れた姿・・・ではなく、 まったく無傷の男が立っていた。 「あれ? 踏みそこなったのかな。 でも完全に踏んでたはずなのに。」 すると石本の前の空中に文字が出てきた。 [デブトロールの攻撃。 勇者は1のダメージを受けた。] 石本は、 「え? なにこれ。 どういうこと? もしかしてデブトロールって僕のこと? ってことはこいつが勇者? しかも1のダメージって。」 「次は俺の攻撃だ!」 「まぁ、そんな剣でやられるわけないし。 そのうち潰れるだろ。」 [勇者の反撃。] ズバーン!! [デブトロールに8700のダメージを与えた。 デブトロールを倒した。] 石本は、 「いたた! 爪楊枝の先でちょこっとつつかれただけなのに、 何で全身がこんなに痛いのー? 動けないよー。」 [勇者は倒したデブトロールを家来として捕獲しようとしています。] 「なに? 僕を家来にするつもり? こんなこびとなんかの家来なんて、そんなの嫌に決まってる。」 するとどこからともなくさっきの堕天使の声が聞こえてきた。 「言い忘れてたが、この世界で勇者に倒されたモンスターは消えてしまうんだ。 お前らは他のモンスターと違って立体映像ではないが、例外ではない。 この世界で勇者に倒されたら消える。 つまり、死ぬということだ。 お前は今勇者に倒された。 生き残る道は勇者の家来になることだけだ。」 石本は、 「ええ、そんな。 家来になるのを拒否したら、僕しんじゃうってこと? どっちもいやだよー。 でも、死ぬのはいやだし・・・。 仕方ないし、家来になるしかないのか・・・。」 [デブトロールは勇者の家来になった。] 勇者は、 「ほんとはお前みたいな役に立たないザコモンスターは家来になんか したくないんだけどな。このあと戦うことになる お前の仲間モンスターに出会ったとき楽しめそうだからな。」 第870話 さてこちらは部長たち(石本除く) 「ところで勇者って、どんなやつなんだろう。」 大ちゃんが言うとダイちゃんは、 「うーん、まあ、どんなやつでも……。」 ダイちゃんが話し始めたとき、 「お前たち、わしの仲間にならんか?」 誰かが部長たちに話しかけた。 「今のは誰なんだ?」 部長は辺りを見回した。 「堕天使とか言うやつの声でもないようだが。」 すると先ほどの声、 「お前たち、どこを見ている。ここだここだ。」 するといつの間にか部長たちの近くに小柄な男が立っていた。 「おい、いつの間にそんなところにいたんだ?それにお前誰だ?」 ベルが聞く、 「まあ、みんなからは魔王とかラスボスとか呼ばれてるがな。 とりあえず魔王と呼んでくれ。」 ダイちゃんが、 「なんかまたへんなやつが来たな。」 ニショブは、 「魔王だと?そうには見えないが……。」 「うむ、その時点で一次試験はパスだ。周りからわしの姿は巨大で恐ろしい 怪物に見えるからな。」 部長は、 「俺たちをなぜ仲間にしたいんだ?」 「まあ、勇者を倒してほしい。そういうわけだ。ただ、今の状態では 不安だからちょっと修行に付き合ってもらうことになる。」 魔王が言うとダイちゃんは、 「なんかいやだなぁ。仲間にするとかいって自分の手下に するつもりなんでしょ。僕をリーダーと認めない限りいやだからね。」 魔王は、 「いいよ。わしの仲間の中のリーダーになれ。」 ダイちゃんは、 「なんかうまいこと言いくるめられてるような気がするんだけど。」 大ちゃんが、 「ところで魔王さん、仲間になって何をするの?」 魔王は、 「もちろん、勇者を倒してもらう。 そのために先ほど言った修行をしてもらうというわけだ。」 部長は、 「修行って言うのは勇者を倒すために強くなれということか。 どういうことをすればいい? まさか滝にうたれるとか……。」 魔王は、 「あの勇者ってやつはさまざまなクエストをこなしてどんどん強く なっていった。お前たちにもそれをしてもらう。」 ダイちゃんは、 「なんか面倒だなぁ。おじさん、魔王だったらなんかすごい 魔法とか使えるとか強い武器とか持ってないの?」 「ないこともないが、それなりに強くなってもらわんと使いこなせない。 この間来た連中なんかわしの忠告を無視していきなり勇者と戦って 全滅させられてたからなぁ。」 「ここに入るのか……。」 部長は言った。部長たちは魔王に案内され、洞窟の入り口まで やってきた。魔王は、 「とりあえず一番奥まで行って戻ってくることだな。この洞窟の中は 結構広くて、お前たちよりでかいやつも一杯いるからな。気をつけろ。」 ることだな。この洞窟の中は 結構広くて、お前たちよりでかいやつも一杯いるからな。気をつけろ。」 第871話 部長は、 「こんなとこ、奥まで行って戻ってくるだけでほんとに強くなれるのか?」 魔王は、 「ここはほんとうは勇者がラスボスを倒したあと、 つまりわしを倒したあとに出現する隠しダンジョンだ。 簡単に言うと、レベルの高いダンジョンってわけだ。」 ダイちゃんは、 「レベルが高いダンジョンだから、早く強くなれるってこと?」 魔王は、 「そういうことだ。 勇者はもうすでにわしを倒せるほどの力をもっている。 時間がないんだ。 お前たちに手っ取り早くレベルアップしてもらわんと間に合わん。 さ、早く強くなって戻ってきてくれ。 せめて中ボスクラスの強さにはなってくれよ。」 部長は、 「仕方ない。 行くか。 どのみち、俺たちだって勇者と戦わないといけないんだ。」 部長たちは洞窟に入っていった。 第872話 さて、少し時間を戻そう。勇者と石本は…… 「うーむ、お前を家来として連れ歩くのは失敗だったかな。 みんなお前の姿を見て逃げてしまう。」 勇者が言うと石本が、 「いやだよー、いまさらそんなこと言うなんて……。」 「何も見捨てるとか倒すとか言ってないだろ。こんなこともあろうかと ちゃんと便利なアイテムを確保してあるんだよ。」 「だったら最初から言ってよ〜。」 「まさかお前のために使うとは思わなかった。結構高かったからな。」 そう言ってどこに持っていたのかベルトのようなものを取り出した。 「これをつけるからな、手を出せ。」 石本は勇者に言われたとおりにするためしゃがんで、 勇者の前に手を出した。すると勇者は先ほどのベルトを 石本の指に巻きつけた。石本は、 「なんか指輪みたいだね。」 すると空中にメッセージ、 [勇者はデブトロールに"召喚の印"を装備させた] 「これで好きなところへ行って来い。これはお前がどこに行っても すぐに呼び戻せるアイテムだ。はずそうなんて思うなよ。これは つけた本人以外はずせない……ってこらー!!」 「うワーッ!!しびれるー。いたいーよー。」 「逃げようとしただろ。」 「いや、はずしてよく見たかっただけだよ。」 「馬鹿かお前は、とにかく無理にはずそうとするとこうなるからな。 とにかく好きなところへ行って来い。」 こうして石本は勇者と一旦別れた。 隠しダンジョンに部長達が入っていくのを見届けた魔王は、 「まあ、あいつらなら何とか戻って来れそうな……ん?」 魔王は先ほどの隠しダンジョンに向かう石本の姿を見つけた。 「見かけの割りに頼りなさそうだな。まさかあの勇者が家来にするとも 思えん、どうせあの中に入ってもすぐに死ぬだろう。あれさえ 見つけなければ……。」 部長達が先に入ったことなど知る由もない石本は、 「なんかおなかすいたなぁ。ここには食べ物とかあるかなぁ。」 とか何とかいいつつ中に入っていく、 「なんだか薄暗いし、誰かにずっと見られているような……。」 石本は回りを気にしつつ奥へと進んでいく、 「あ、なんか食べられそうなもの見っけ!!わーい、これはちゃんと消えずに 食べられる。ラッキー!!パクパク……」 こちらは部長たち。 「なんかさっき石本のおにいちゃんの声がしたような……。」 大ちゃんが言う。ダイちゃんが、 「いくらなんでもこんなとこまでは来ないだろ。」 すると部長は、 「いや、あいつはたまに、というかしょっちゅう予測もつかないことを することがあるからな。」 ダイちゃんは、 「しょうがないなぁ、めんどくさいけど行ってみようか。」 「なんか力が出て来る。あれ?こここんなに狭かったっけ?」 先ほどのものを食べてしまった石本のところに部長達がやってきた。 石本を見つけた部長は、 「まさかとは思ったが、本当にいたとは……。」 ベルが、 「しかしなぜ巨大化してるんだ?我々の10倍くらいにはなってるぞ。」 石本は部長たちをみおろして、 「なんか知らないけど、踏み潰したい気分になってきた。ちょっと 痛いけどいい?」 ダイちゃんが、 「そんなわけないだろ。代わりに僕がお前以上に巨大化して 踏み潰してやる。」 第873話 ダイちゃんは巨大化しようとしたが、やはりできなかった。 「もう、いつもいつも巨大化できないなんて不便すぎるよー!」 部長は、 「まぁ、巨大化できない方が普通と言えば普通なんだが・・・。 でも今は石本のやつをこらしめるために巨大化したいとこだな。」 ダイちゃんは、 「そうだ、別に僕が巨大化しなくてもあいつなら命令して縮められる。 石本、僕の足で踏み潰せるくらい小さくなれ!」 ダイちゃんは石本に命令した。 が、石本に変化がない。 しかも変な赤い文字が空中に現れた。 [違反行為を確認しました。 ゲーム内のシステム以外の能力、 アイテムなどを使用することは違反になります。 今回は警告ですが、次回違反が確認されたときは重大なペナルティが 課せられますので気をつけてください。] ダイちゃんは、 「え? なに、どういうこと? あいつに命令するのが違反なの?」 部長が、 「このゲームの中の能力以外は使うなってことだろう。 だから石本から目を放しちゃいけなかったんだ。」 石本は、 「なにごちゃごちゃ話してるのか知らないけど、もう踏んじゃうよー。」 ズズーーーン 「うわーー。」 「みんな大丈夫か。」 「うん、足の衝撃波でちょっと飛ばされただけだ。」 石本はわざと少しずらして足を踏み降ろしたのだった。 大ちゃんが、 「あ、また文字が出てきた。」 [ジャイアントオーク達は500のダメージを食らった。] 部長は、 「なんだ? もしかして俺たちのことか? 今ので500ダメージ?」 大ちゃんが、 「よく見たら、みんなの頭の上に小さな文字が浮かんでる。 レベル15でHP800って。」 ダイちゃんは、 「みんな同じだな。 さっき500減ったんだから元は1300だったのか。」 部長は、 「全HPが1300なのに、今のちょっとした衝撃波で500も受けたってのか? もしまともに受けてたらやばかったぞ。」 ベルも、 「ああ、まともにくらったら一瞬でHP0だな。」 部長は、 「いしもとー! どうやって巨大化したのか知らんが。 今のうちにやめないと、あとでお仕置きだぞ!」 すると石本は、 「いしもと? だれだそれは。 俺様はこのダンジョンのボス、キングデブトロール様だぞ。 ここはお前らのようなザコモンスターが来るところではない、 今度こそ踏み潰してやる。」 第874話 ニショブが、 「今はここから逃げたほうがいいんじゃないか?下手すれば 全滅しかねない。」 部長が、 「うーん、仕方ない。」 ダイちゃんも、 「あんなやつ相手に逃げるのは悔しいけど……あとで思いっきり お仕置きしてやる。」 それを聞いた石本は、 「逃げられると思うのか。」 − ズズーン − 石本は部長たちの逃げようとした先に、足を踏み下ろした。 直後に例のメッセージ、 [パーティは逃げるのに失敗しました。] 大ちゃんは、 「そんなぁ……。」 ベルは、 「このままでは本当に危ないぞ。」 部長は、 「本来なら大ちゃんの能力でテレポートできるのだが、 そんなことをすれば……ん?なんだこれ?」 部長は知らないうちに見たことのないボールを持っていることに 気づいた。するとメッセージが現れ、 [ヘルプを開きますか? 「はい」「いいえ」10秒後にメッセージは 自動的に閉じます。] 残り10秒だった数字が9,8,7……と減っていく。部長は、 「ヘルプってなんだ?あ、とにかく『はい!』」 すると空中に大きめのウインドウが現れ、 [ゲーム中のプレーヤーおよびキャラクターはゲームスタート時に 装備のほかアイテム1つと所持金を持っています。アイテムは買ったり、 敵を倒して倒して手に入れます。所持金は敵を倒したりアイテムを 売って手に入れます。] ダイちゃんは、 「これであいつをやっつけよう。」 大ちゃんは、 「でも誰がどんなアイテムを持っているかわからないよ。」 すると先ほどのヘルプと同じような感じのメッセージが現れた。 [装備、アイテム、所持金を確認しますか? 「はい」「いいえ」 10秒後にメッセージは自動的に閉じます。] 大ちゃんは、 「お願い……じゃなくて『はい!』」 すると空中に先ほどのような大きめのウインドウが現れ、 [ジャイアントオーク02 装備:なし 武器:なし 防具:普通の服 所持金:520ゴールド アイテム01:いい薬草 (効果:使うと1名のHPを200-600回復させる)] 大ちゃんは、 「どうしよう。もし使ったとしても1人しか助からない。」 部長は、 「誰かほかに役に立つアイテムを持っているかもしれない。それに このメッセージが表示している間は石本も攻撃してこないみたいだから 時間稼ぎにもなる。」 第875話 ダイちゃんが、 「ところであいつのレベルはどのくらいなんだろう。 案外見掛け倒しだったりして。」 大ちゃんは、 「うーん、高くて見えにくいけどなんとか・・。 えーと、レベル99のHPが???になってる。」 ダイちゃんは、 「なにそれ。 なんでこいつがそんなに強くなってるんだよ。」 そのときニショブが、 「お、これ使えるんじゃないか? [脱出の抜け穴](ダンジョンの中で使うと、パーティをダンジョンの外にワープさせることができる。)」 部長も、 「それしかない。 さっそく使おう。」 すると空中にウインドウが現れて、 [脱出の抜け穴を使いますか?「はい」「いいえ」] 「はいっ!」 シューン!! 部長たちの姿が消え、ダンジョンの外にワープした。 部長は、 「ここはダンジョンの入り口の前か。 なんとか助かったようだな。」 すると、ダンジョンの前で待っていた魔王が 「もう帰ってきたのか。 ずいぶん早かったな・・・。 って、さっきとぜんぜん変わってないじゃないか。」 ダイちゃんが、 「仕方ないだろ。 そうしないと全滅するとこだったんだから。」 魔王は、 「たしかにこのダンジョンは手ごわい敵が多いが、 そんなにすぐに全滅するとは思えんが。」 部長が、 「俺たちの仲間だったやつが、ダンジョンの中で巨大化して現れたんだ。」 ダイちゃんも、 「あいつ、急に様子が変わったよな。 俺様はこのダンジョンのボスだとか言い出してさ。」 魔王はあわてて、 「ボスだって? ほんとにそう言ったのか。」 部長は、 「ああ、そう言ってたな。 どうしたんだあいつ。」 魔王は、 「このダンジョンにはもともとボスはいないのだ。 このわしが倒されたときに現れるダンジョンだからな。 わしが倒されるまではわしより強いモンスターは必要ない。 だからこのダンジョンには食べると最強のボスになる実を置いておいたんだ。」 部長は、 「それを石本のやつが食べたってことか。」 ニショブは、 「ここから離れて話した方がいいんじゃないか? あいつが追いかけてきて出てくるかもしれないぞ。」 魔王は、 「その心配はない。 ダンジョンのボスになったものは ダンジョンを守る使命がある。 自分では外には出られないようになっている。 出られるとしたら、勇者に一度倒されて召喚の印をつけられて外から 呼び出されたときぐらいだ。」 ダイちゃんが、 「召喚の印?」 魔王が、 「勇者がモンスターを仲間にしたあと、どこにいても 呼び出せるようにするアイテムだ。 ベルトのような装備品だな。 巨大なモンスターには指に巻くことが多いが。」 大ちゃんが、 「そういえば石本のお兄ちゃん、指に何かつけてたような。 はぐれるまではつけてなかったから、ちょっと気になったんだ。」 魔王は、 「なんだって! もしそれが召喚の印だとすると、勇者を倒す何倍もやっかいだぞ。 このままじゃまずい。 お前たちにはこのダンジョン以上に経験値をかせげる方法をやってもらうぞ。」 部長は、 「このダンジョン以上って、どんなことだ。」 魔王は、 「勇者はモンスターを倒すことで経験値をかせぐが、 モンスターは他にも経験値を稼ぐ方法がある。」 ダイちゃんは、 「どうせめんどくさいことじゃないの?」 魔王は、 「簡単なことだ。 特にお前たちのような巨大モンスターならな。 街を壊滅させるだけでいい。 モンスターは街を完全に壊滅させればかなりの経験値を得られる。 大きい街を壊滅させればいっきにレベルアップできるはずだ。」 部長は、 「街を壊滅か・・ 俺たちほんとにモンスターみたいだな。」 第876話 「ここか……。」 部長は言った。部長たちは魔王に案内されてかなり大きな街の近くまで やってきたのだ。街の住人たちは騒ぎ始めていた。魔王が巨大モンスターの 集団を引き連れてきたから当然である。 大ちゃんは、 「なんだか気が進まないなぁ。」 ニショブが、 「ゲームの世界と割り切って、やるしかないだろう。」 魔王は、 「念のため手下に勇者の居場所は調べさせた。大きな街でここが一番勇者の いる場所から離れているからな。」 部長は、 「うーむ、確かに勇者に気づかれて倒されてしまったら意味がない。」 ベルが、 「召喚の印のこともある。勇者にあいつを呼び出されたら大変な ことになる。」 部長は、 「今からはじめるぞ。」 部長たちの足元から街の住人たちが逃げていく。 −ドカーン、バリバリ− 部長たちは周りの建物を壊し始めた。建物は大きな音を立てて簡単に 崩れ落ちていく。建物に体当たりしたり、踏み潰したり、思い思いの方法で 破壊していった。ある者は高い塔を下から壊す。 −ズドドドーン− 土煙を上げて塔は倒れ、周りの建物を巻き込んでいく。ある者は スタジアムらしき大きな施設の端っこを思いっきり壊す。 −ドドドドーン− まるでドミノ倒しのように次々と壊れ、すぐに瓦礫の山となった。 大ちゃんは、 「ゲームとはいえ、町の人がかわいそうだ。」 するとダイちゃんは、 「しょうがないだろ、僕だってこんなことはやりたくないけど仕方なく やってるんだ。」 部長は、ダイちゃんが一番進んで街を破壊しているのは明らかだと 思ったが、口にしなかった。するとベルが、 「向こうから何か来るぞ。」 大ちゃんが、 「もう勇者が来たのかなぁ。」 ニショブが 「違う。どうやら軍隊が派遣されてきたらしい。」 第877話 魔王は、 「軍隊か。 これはラッキーだったな。」 部長が、 「なにがラッキーだ。 俺たちを攻撃するつもりだろ。」 魔王は、 「心配するな。 あんな軍隊の攻撃など、お前らに通用するほどのものではない。 それより、あの軍隊を全滅すればさらに経験値アップだ。」 ダイちゃんが、 「ふーん、こんな簡単なことでレベルアップできるなら はじめからこっちに来ればよかったのに。」 魔王は、 「わしは一応世界を支配するつもりだからな。 できれば街はそのままにしておきたかったんでな。」 ダイちゃんは、 「まぁいいや。 あの軍隊を全滅させればいいんだろ。」 大ちゃんは、 「ほんとにいいのかなぁ。 ゲームといってもすごくリアルだし、ほんとに潰してるみたいなんだもん。」 部長が、 「俺も最初はそう思ったが、よく考えたらこれは全部あの堕天使が作ったものだろ。 なら、こんなの潰したって罪悪感感じる必要ないってことだ。」 大ちゃんは、 「それはそうなんだけど・・。」 部長は考え方を変えることでふっきれて、軍隊に突っ込んでいった。 「おらおら、チビどもー。 俺が全員踏み潰してやるぜー。」 ダイちゃんも、 「あー、ずるいよ。 僕だって。」 第878話 −ズン、ズン、ズシーン− 部長は思いっきり足を踏み下ろしながらたくさんの兵士や大砲を 次々と踏み潰していった。 −プチッ、プチッ、バシッ− 部長の足の下では踏み潰されたものが音を出し破裂、爆発して 消えていく。しばらくすると別の方向から大型の戦車部隊がやってきた。 「うーむ、意外と近代的だな。」 ニショブが言う。 「見てるだけじゃだめジャン。」 ダイちゃんが戦車のほうに向かっていく。 −ズババババーン− 戦車が部長たちに向かって激しい砲撃をしてきた。しかし、 魔王の言ったとおりまったく効果はなく、部長たちも蚊に刺された というよりちょっと触られたくらいの感覚しかなかった。 「ぜんぜん効いてないよーん。」 ダイちゃんはそう言って戦車を次々と踏み潰していく。 −ドカン、ドカン、ドッカーン− 今度はダイちゃんの足の下で踏み潰された戦車が周りに破片を 飛び散らせて次々と爆発していく。 「ならば俺はこうだぁー。」 部長は戦車部隊のすぐ近くの大きな建物の下を戦車の方向へ倒れるように 破壊した。 −ドドドドド、ドッカーン− 部長が壊した建物は土煙を上げながら次々と戦車の上に倒れていく。 戦車は次々と崩れた建物の下敷きになり爆発していく。するとダイちゃんが、 「まだまだ、このくらいじゃ甘いんじゃないの?」 先ほど部長が壊した建物の瓦礫の山の上をダイちゃんが思いっきり 足を踏みながら歩いていく。 −バシッ、バシッ、ババーン− 瓦礫の下でつぶれず残っていた戦車が次々と爆発していった。 それを見たベルが、 「うーむ。あの二人が率先して破壊していってるような……。 見てる場合ではないな。我々もつづこう。」 大ちゃんも、 「あ、うん、そうだね……。」 この二人も軍隊へ向かっていった。 第879話 魔王も部長とダイちゃん以外のメンバーの気の進まない雰囲気を見て言った。 「お前らそれでもモンスターか。 街や軍隊を破壊できるなんて、普通のモンスターなら大喜びだぞ。 それに、破壊活動に参加しないと経験値ももらえないぞ。 あの二人を見習って、全員大暴れして来い!」 気の進まない大ちゃんも仕方なく、 「ごめんねー。 こうしなきゃ元の世界に帰れないから。」 ズシーン 謝りながら軍隊を踏み潰しはじめた。 部長も他のメンバーが参加してきたのを見て、 「みんなでやればこんな軍隊などすぐに壊滅だ。 どんどんぶっ潰してやろうぜ。」 ズシーン ドカーン 部長の言うとおり、こびとたちの軍隊は数分で壊滅してしまった。 残ってるのは踏み潰された戦車の残骸がそこらじゅうに転がっていて 煙をもくもくとあげていた。 部長は魔王に、 「これでどうだ。 俺たちレベルアップしたのか?」 魔王は、 「いや、まだだ。 経験値をもらうには、軍隊のリーダーを潰さないといけない。 そいつを逃がしてしまったら無駄になってしまう。 どこかに隠れてるはずだ。 探して踏み潰せ!」 部長は、 「そういうことは先に言ってくれよ。 戦車の残骸だらけで探しにくいじゃないか。」 第880話 するとダイちゃんは、 「だったら、その辺の建物ごと潰しちゃったらいいんじゃない?」 「なるほど、うん……?」 部長が足元を見ると何人かの兵士が銃を部長たちに向けて撃っていた。 もちろん、部長たちにそんな攻撃などまったく無意味である。 −パン、パン……− 「おいお前ら、そんなことやっても無駄なんだよー。そうだ。」 部長はしゃがんで兵士の一人をつまみ上げ、 「おい、お前らのリーダーはどこにいるんだ?言わないと今すぐに つぶしてしまうぞ。」 それを見ていた大ちゃんが、 「いくらなんでもやり過ぎだよー。」 そう言って部長のほうへ行こうと足を一歩踏み出した。 -プチッ- ダイちゃんが、 「なんか足元でつぶれたぞ。」 −チャンチャラリロリーン♪− どこからともなく短めのメロディが聞こえ、おなじみの空中に メッセージが現れた。 [リーダーを倒し、軍隊を完全に壊滅させました。パーティは 経験値を得ました。] その直後、部長たちの頭上に数字が現れ、ものすごい速度で カウントアップされていく。部長は、 「やったぞ。」 その直後、空中にメッセージが現れ、 [スペシャルイベントが発生しました。] ベルは、 「ちょっと待て、スペシャルイベントって何のことなんだ?」 すると魔王は、 「そうだ、忘れていたがこの街には特別部隊がある。」 部長は、 「そんなのがあるのかよ。せっかく全滅させたのに。」 ダイちゃんは、 「さっきみたいにすぐに全滅させればいいじゃん。」 そのとき、部長たちの頭上でなんが音がしている。上を見ると 部長たちから見ても巨大なUFOらしきものが空中に浮かんでいた。 部長は、 「何だあれは。さっきまで空中にあんなものなかったぞ。」 魔王は、 「あれは空中要塞だ。超古代文明の遺跡から発掘されたものを修復した ものらしい。」
|
|
|