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第621話

ブギヒアはグーアに小声で言った。
「大丈夫。 これはただの時間稼ぎだ。
 みんなが帰ってくればなんとかなる。」
グーアは、
「そうだったのか。 って、それでもみんなが帰るのが
 遅かったり戻ってこなかったらどうするんだ?」
ブギヒアは、
「あいつらも自分たちだけではこの星から出られないみたいだから、
 バソレをなんとかしないと無事ではいられないことはわかっているだろう。
 だから帰ってこないことは考えにくい。
 帰ってくるのが遅かったとしても、なんとかごまかし続けて
 持ちこたえるんだ。」
「うーん、なんかすごく危険な気が・・・」
すると上からバソレが、
「何をしておる。 さっさとやらんか。 不必要なおもちゃは処分するぞ。」
グーアはしぶしぶマッサージをはじめた。
「こんな巨大なチンコをマッサージするはめになるとは・・・」
グーアがそう言うと、それを聞いたブギヒアが
「私たちがあなたたちに捕まれば、みんなこういう扱いを
 受けていたんですよ。 しかも、気に入られなかった人たちは
 使い捨ての道具のように・・・」
「あ、すまん。 お前こびとだったんだったな。
 俺も今まではこびと捕まえて喜んでたけど、
 これからは気持ちが変わったよ。」
「わかってくれればいいんだ。
 実は私もさっき一時的に巨人を体験したんだ。
 目の前のこびとをいじめたい気持ちでいっぱいになった。
 巨人になればみんなそうなってしまうのかもしれない・・・」 

第622話

 さて、こちらは石本たちを探しに言った部長、はじめは案内すると
いったこびとについていったが、
「わあっ!なにするんですか!」
 部長は目の前に歩いているこびとをいきなりつかんだ。こびとは必死で
暴れて部長の手から逃れようとする。部長はこびとに、
「すまない。急いでるんだ。どっちなのか方向を教えてくれ。」
 部長はそう言ってこびとを自分の肩の上に乗せた。

 さてこちらはその石本の分身、もはやこの状態では石本何号でも
いいような気もするが、石本3号は寝転び周りのこびとたちにマッサージさ
せていた。
「町を壊すのもいいけど、こうやってこびとたちを自分の好きなように
 するのも楽しいなぁ。そうだお前、ここをマッサージしてくれない
 かなぁ。」
 そう言って石本3号は自分のまたぐらを指差し、一人のこびとに言った。
「そ……そんな……。」
「つらいよねー、僕もそういうのやったことあるからねー。でもやって。
 やらないとどうなるかわかってるよね。」
「さあ、どうなるか今すぐ教えてもらおうか……。」
 石本の聞き覚えのある声が聞こえてきた。そう、案内のこびとを
肩に乗せた部長だ。
「わー、聞こえない聞こえない、何も聞こえないよー。」
 石本3号は大声で叫びながら耳をふさいだ。しかし部長は石本3号の
目の前までやってきて、石本3号の耳をふさいだ手を無理やり引き剥がし
耳元で叫んだ。
「この星に散らばったお前の分身たちとここで合体しろ!」
 部長がそう叫ぶと、他の分身たちも部長のいるところまで飛んできて、
その場で合体した。部長は、
「急いでいるんだ。これからダイちゃんと大ちゃんをつれて、敵と
 戦うんだ。」
「そんなー。」
「案内、すまなかったな。」
 部長は肩の上のこびとを下ろすと、石本の上に乗りそのまま飛んでいく。


「おい、どうした。あまり感じなくなってきたぞ。」
 少しずつ巨大化し続けているバソレは、ブギヒアたちのマッサージでは
だんだん感じなくなってきているのだ。それでもブギヒアとグーアは
汗だくになってマッサージを続けていた。そのとき、

-ズドーン-

バソレのすぐ後ろで、ものすごい音がした。
「何じゃ?」
 後ろには、自噴より巨大な石本が立っていた。石本はバソレを見下ろし
ながら、
「今からお前をやっつけてやる。ちょっと心配だけど命令だから……。」
 ところで部長たちはというと、巨大石本の耳の穴の中にいた。空飛ぶ
石本に乗りダイちゃんと大ちゃんと合流した部長は、自分たちを耳の
穴の中へ入れるくらいまで石本を巨大化させ、そこから命令することに
したのだ。
「ここなら確実に命令できるからな。石本、速攻で倒せ。」 

第623話

石本が、
「倒せって、いきなり言われてもどうすればいいんだよー」
耳の中で部長が叫ぶ。
「相撲でもなんでもいい! とにかくそいつをぶっ倒すんだ!」
ダイちゃんは横で、
「ほんとなら倒すのは僕の役目なんだぞ。
 それを任せてやってるんだ、ありがたく思え。」
石本は部長の言葉のとおり相撲の構えになった。
そして・・・

ズシィィィィィィン・・・ズシィィィィィィン

四股を踏み始めた。
辺りはその振動で建物が崩れていく。
もちろん耳にもその振動は伝わる。
「うわああ、いしもとーーー! 四股は踏まんでいい!
 すぐにぶつかっていけー。」
石本は命令どおり、バソレに突撃しようと構えた。
だがバソレは自分の股間からブギヒアとグーアを摘み上げて言った。
「ちょっと待て。 こいつらも巻き添えになってもいいんじゃな?
 余を倒せば、こいつらもぺちゃんこに潰れてしまうぞ。」
それでも命令通りにしか動けない石本は止まることはできない。
石本は猛スピードでバソレに突っ込んでいく。
「まっ、待てと言っておるじゃろ!」
バソレはギリギリのところで避けた。
避けられた石本は、再びバソレのほうに方向転換して突っ込んでいく。
「こいつらが潰れてもいいんじゃな?」
バソレは突っ込んでくる石本をギリギリで避けるしかできなかった。
それでも石本は巨大な牛のように、何度も突っ込んでいく。
足元の街は、建物の瓦礫すら砕かれ
ボコボコの砂地状態になっていた。 

第624話

「たすけてくれれ。だれかぁぁ。」
 もはやこうなってしまってはバソレも巨人から逃げるこびとである。
ブギヒアとグーアを握り締めながら必死で逃げていた。二人は握り
つぶされることこそなかったが、手の中で高速で振り回され、
気絶していた。

-ズシン、ズシン、ドォーン-

 自分より巨大な石本が走ってくる。が、踏み潰すことなく、
通り過ぎてしまう。通り過ぎたことに気づくとまた反対側に走り出す。
「おい、何やってんだ。早くやっつけろ!」
 石本の耳の穴からダイちゃんが言う。石本は、
「そんな事言ったって……。」
 するとダイちゃんは、
「そうだ。その場でジャンプしてあいつの上に……。」
 そう言おうとすると大ちゃんが、
「ちょっと待って。ブギヒアさんたち置いてきたんじゃ……。」
「だったらどうすりゃいいんだ。」
 すると部長が、
「そうだ。石本そいつを踏み潰さずつかまえろ。」
 走ってきた石本はバソレの前で止まった。バソレは、
「いったい何をする気じゃ。まさか……。」
 バソレの前でしゃがんだ石本は両手で拾い上げるように腰が抜けて
動けなくなったバソレを捕まえた。石本の耳の穴から部長。
「よし、そのまま力を加えろ。」
「う、やめろ……。」
 バソレのからだの両側から押さえつけられ、力がだんだん強まる。
「おい石本、ブギヒアとグーアを俺たちのところへ。」
 部長が言う、石本は、
「でもどうやって……。」
 石本本人ははわかってなくても体は命令どおり動く。石本の手が
小さなバソレの腕をつかむ。その手にはブギヒアとグーアが、
もう一方の手で器用にブギヒアとグーアをつまみ、部長たちのいる
耳の穴へ入れた。
「よし、これで思いっきりやっつけられるぞ。」
 部長が言ったそのとき、バソレの巨大化スピードが一気に速まり、
石本の5倍くらいになったところでとまった。バソレは、
「さて、これから仕返しをさせてもらうぞ。」 

第625話

石本は、
「ひぃぃぃぃぃ、急に僕よりでかくなった!
 これじゃ突っ込んでも勝てないよー。」
すると石本の耳の中のダイちゃんが、
「それじゃあこっちも巨・・・!!」
部長はあわててダイちゃんの口をふさいだ。
「な、なにすんだよー。」
部長は、
「石本をこれ以上巨大化させるのは危険だ。
 今ですら耳の中にいるから命令が聞こえるんだ。
 これ以上巨大化したら、俺たちの声が石本の鼓膜に届かなくなる。」
ダイちゃんが、
「うーん・・・、こいつのことだから命令が効かなくなったらやばいか。
 でも巨大化せずには勝てないぞ?」
部長が、
「石本のことだから、体が自由になったらまっさきに耳に指を入れて
 俺たちを潰そうとするだろうな。」
バソレは石本を見下ろしながら言った。
「んー? どうしたんじゃ、さっきまでの威勢は。」
バソレは石本を両手で持ち上げた。
「かわいいもんじゃな。 このままどこか遠くに放り投げてやろうか?」
石本は手足をじたばたさせて、
「い、いやだよー。 助けてー。」
耳の中の部長たちも、
「まずいぞ、時間がない。 いったいどうすれば・・・」 

第626話

「そうじゃ、このままつぶしてしまおうかのう。」
 石本を高く持ち上げたままバソレは言う。
「そんなー。」
 そのときである。
「なんということじゃ。もうがまんができん。仕方ない。」
 バソレは突然石本を下に下ろした。
「逃げようなどとは思うなよ。」
 どうやらバソレは小便が我慢できなくなったらしい。

-ドババババ-

 このサイズではその下の被害はもはや想像すらできない。おそらく
あらゆるすべてのものが完全に流されてしまうだろう。
「どうしよう。このまま逃げようか。また変なこと命令されない
 うちに……。そうだ。」
 石本は足元の土か岩を、とにかく手に触ったものを耳に詰めて耳栓
代わりにした。
「これで命令は聞こえない……ってしまった!耳の中にいるから意味が
 なカッター。」
 そのときである。石本は真上からの視線を感じた。石本が恐る恐る
見上げると先ほどよりさらに大きくなったバソレが石本を見下ろしていた。

 さて石本の耳の中では……。
「うーん、あいつが耳栓をしてくれたおかげ俺たちが外へ放り出される
 ことはなくなった。」
 部長が言うとダイちゃんが、
「でもこれじゃ外へでられなくなったじゃないか。どうするんだよ。」
「いや、方法はあるにはある。石本をもう少しだけでも巨大化させれば
 耳栓は外れ、俺たちは外には出られるはずだ。だがこれ以上の巨大化は
 危険かもしれない。」
 とのとき、部長たちはものすごい衝撃を感じた。バソレが必死で
逃げようとしていた石本を片手を伸ばして簡単に捕まえたところだった。
「さて、どうするかのう。このまま握りつぶしてしまおうか。」
 バソレは石本を握る力を少しずつ強くし始めた。 

第627話

「早く何とかしてよー。 潰れちゃうよー。」
石本はバソレの手の中でじたばたと暴れていると、
急にバソレの握る力が弱くなった。
「あれ? 助かったのかな・・・?」
石本はバソレの顔を見上げた。
するとバソレも石本をじっと見ていた。
「お前は・・・。 よく見たらブギヒアといっしょに
 お気に入りにしたこびとではないか?」
石本はバソレの部屋でさんざんおもちゃにされていたのだ。
「なぜお前がここにいるんじゃ?
 それになぜこびとのお前が巨大化できたりしたのじゃ?」
石本は、
「そ・・それは・・・」
どう言えばいいかわからなかった。
本当のことを言えるわけもなく、うまい嘘も思いつかなかった。
バソレは再び握る力を強めて言った。
「何か隠しておるな? お前は何者なんじゃ?
 言わないと握りつぶしてやるぞ。」
「……。」 

第628話

     石本のピンチは、彼の耳の中にいる部長たちにもわかっていた。
    「このままじゃやられちゃう。」
     大ちゃんが言う。ダイちゃんが、
    「何かいい方法がないのかよ。」
     すると部長が、
    「奴も石本の正体に気づき始めてる。やはり命令で石本をさらに巨大化
     させるしかないか……。」
     部長は考え込んだ。そうしている間にも、バソレが石本を握る力は
    少しずつ強くなっていく。
    「さあ、お前はいったい何者なのじゃ。言わぬと本当に潰してしまうぞ。」
     石本の体はきしみ始め、息をするのも苦しくなってきた。石本は何とか
    バソレの指を必死で押しのけようとしたり、暴れたりするが、どうにも
    ならない。
    「それとも、もう一度巨大化でもしようというのか。何度でもそれ以上
     大きくなってやるぞ。」
    「くううう……。」
     すでに石本は苦しさのあまりほとんどしゃべることもできなくなって
    きていた。しかしさらにバソレの握る力は強くなる。それでも石本は
    両腕で動くはずもないバソレの指を押し返そうとしている。
    「答える気はないのか。それもよかろう。ならばその場で握り
     つぶすまでじゃ。」
    (もうだめだー)
     石本がそう思ったとき、耳の中から部長の声がはっきり聞こえた。
    「石本、よく聞け、今目の前にいる奴をやっつけるために巨大化しろ。
     奴が巨大化したらさらに巨大化をするんだ。そしてやっつけたら
     壊したものを元に戻して、自分も元に戻るんだ。いいな。」
    (そんなむちゃくちゃなー)
     石本はそう思ったが、その命令は受け入れられたようだ。
    「な、いったい何なのじゃ。」
     バソレが握っている石本の体が急に熱くなり、光り始めた。その直後、
    一気に重くなった。
    「やはり巨大化するつもりなのか、その前に潰さねば……。」
     バソレが一気に握る力を強めようとしたとき、握っている感覚が急に
    なくなった。
    「何が起こったのじゃ……。」
     バソレがふと上を見上げると、自分より巨大な石本が片足を大きく上げ、
    自分を踏み潰そうとしていた。

第629話

    石本の耳の中は、部長たちから見て
    さっきまで洞窟のようだったのがいっきに巨大空洞に広がっていた。
    部長が、
    「もういくら大声で叫んだって石本の鼓膜には届かないな。
     でもさっきの命令で、あいつを倒して元に戻るまでは俺たちを潰すことはできないだろう
  。 あとは石本があいつを倒すのを待つだけだ。」
    ダイちゃんが、
    「かってにそういうこと決めないでよね。 そういう命令は僕がやるんだから。」
    大ちゃんが、
    「でも大丈夫かな? 相手も巨大化できるみたいだし。
     巨大化合戦になったら、いつかみたいに星より巨大化して息が出来なくなっちゃうかも。」
    部長は、
    「見たところ、あいつの巨大化は時間がかかってるみたいだった。
     巨大化するスピードはこっちのが上ってことだ。 だからきっと大丈夫。」

    そして石本は、足元のバソレを見下ろして片足上げている。
    「さっきはよくも苦しめてくれたねー。 一瞬でぺちゃんこにしてあげるね。」
    バソレは、
    「ま、待ってくれ。 たのむ。 そうだ、余の宝を好きなだけやろう。」
    だが石本は、
    「そんなのいらないよー。 僕がほしいのは、巨大なこの体だけ。
     ずっと巨大化してられるなら、何もいらないもん。」

第630話

    「お願いだー。助けてクレー。」
     バソレは石本に向かって大声で叫んだ。しかし石本はそれを無視して
    思いっきり片足を上げ、一気に……

    -ズドォォォォォォォォンンンン-

     もはや土煙だかなんだかわからない。石本の足の下になったものは
    あらゆるすべてのものが一瞬で破壊された。それだけではない。
    そのとき発生した途方もない衝撃波は超巨大地震クラスのものだ。
    振動が、巨大津波が、この星にこれまた途方もない被害をもたらす。

    「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

     バソレは石本に踏み潰されずには済んだが、巨大な衝撃波のほぼ
    中心である。衝撃波か、あるいは石本の足に弾き飛ばされたのか、
    バソレの体はごろごろと転がった。もちろんそれだけでもとんでもない
    被害である。バソレは起き上がり、
    「ふう……助かったのか……。」
     すると上から石本の声。
    「あーあ、踏み潰したと思ったけど、はずしていたのか。こんどこそ
     いくよぉぉ!」
    「頼む、待って……。」

    -ズドォォォォォォォォンンンン-

     再び巨大な石本の足がバソレのすぐ横へ、バソレは、
    「やめてくれぇぇ。余が……。わぁぁぁぁっ!。」
     バソレの言葉がいい終わらないうちに再び石本の巨大な足。
    「なかなかうまく行かないなぁ。」
     石本がバソレを踏み潰そうとしてはずすたびにこの星の被害は
    拡大し続ける。このままではこの星の上にあるものは跡形も無く破壊
    されつくされ、この星の形すら変わってしまうかもしれない。
    「エーい、面倒だ。」
     石本は思いっきりジャンプして、バソレの上へ飛び降りた。次の瞬間、
    石本は足の裏でほんの一瞬だけだが、今まで感じたことも無いものを
    感じた。次の瞬間、あたりは光に包まれた。


    「な……なんだったんだ?」
     ロサノは気が付くと引越しが済んだばかりの目を覚ました。
    「夢だったのか?巨人とかこびととか居る訳ないしな。」
     ロサノは窓に近づき、外を見た。
    「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
     夢だと思った巨人たちが、外にいた。しかしその巨人たちはすぐに消え、
    代わりに光の塊が現れたが、それも空のかなたへと消えていった。

     部長たちが気づくと、回りはすべて闇だった。部長が、
    「うまく行ったのか?」
    「だといいけど。」
     大ちゃんの声だけが響く。するとダイちゃんの声、
    「大丈夫に決まってるだろ。」
    「あのー、いったい何が……。」
    「どうなってるんだ?」
     グーアやブギヒアの声が聞こえる。部長が、
    「なんか知らないが、助かったみたいだ。そうだ石本、どこにいるんだー。
     聞こえたら返事しろ〜。」
     そのときである。
    『驚きましたね。まさかあななたちがここまでやるとは。あなたたちを
     倒そうと思いましたが、やめました。代わりにあなたたちを利用させて
     もらいますよ。』
     ダイちゃんが、
    「おまえは……。」
     ダイちゃんが言葉を言い終わらないうちに部長たちはどこかに転送
    された。
    「またどっかに転送された。ここはどこなんだ。」
     ダイちゃんが言うと先ほどの声。
    『場所だけは言っておきましょう。ここはハマーニャ星です。後の情報は
     自分たちで得てください。それからもうひとつ、あなたたちがどう
     あがいても、結局は私の計画通りに動くことになるんですよ。』
     部長たちのいる場所は砂漠のような感じの場所だが、遠くに町の明かり
    らしきものが見えた。

第631話

    部長が、
    「ハマーニャ星って言われても・・・。 いったいここはどこなんだよ。」
    ダイちゃんが、
    「あいつ自分が送り込んだやつがピンチになったからって、また僕たちを転送したんだ。」
    大ちゃんも、
    「僕たちがどんなにがんばっても、結局こうなっちゃう・・・。
     やっぱりマジューイに勝つなんて無理なのかな。」
    ダイちゃんは、
    「何言ってんだよ。 お前らはともかく、僕が勝てないわけないだろ。
     チャンスさえあれば、一瞬で倒してやるのに。」
    部長が、
    「そのチャンスがなかなかなぁ・・」
    ダイちゃんが、
    「とにかく今はマジューイのやつを突き止めるんだ!」
    部長が、
    「そうだな。 まずはここがどこなのか情報を集めないとな。
     あっちに町があるみたいだし、行ってみよう。」

    部長たちは遠くに見えていた町の明りの方に歩いていった。
    その町には数軒の民家があるだけだった。
    部長が、
    「なんだ、今度はどんな巨人やこびとが出てくるのかと思ったら、
     俺たちと同じサイズみたいだな。」
    民家の大きさから自分たちと同じサイズだとわかった。
    ダイちゃんが、
    「よし、家の人から情報を聞きだすぞ。」
    そして適当に選んだ民家のドアを叩いた。

    トントントン

    するとしばらくしてドアが開いた。
    中からは、やはり部長たちと同じサイズの男が出てきた。
    「ん? なんだ? 見かけない顔だな。」 

第632話

大ちゃんが、
「ええっと、その、僕たち道に迷っちゃって……。とりあえず町の
 名前だけでも教えてほしいんだけど……。」
すると男は、
「ここはテリューンの町だ。ちょっと待ってろ。」
 そう言って男は奥へ引っ込んでしまった。何か奥で誰かと話して
いるようだが、よく聞こえない。


「いったい、どれだけ待たせるんだ。」
 部長が言った。ダイちゃんが、
「もう、能力が戻っていたら……。」
 ダイちゃんが言うと大ちゃんは、
「やめてよー。それだけは。」
 男が再び出てきて、
「道に迷ったとか、これはお困りでしょう。もう暗くなります。今から
 泊まるところへ案内します。」
「なんか、さっきと態度変わってない?」
 ダイちゃんが小さな声で部長に言う。部長は、
「確かにそう思うが、知らないところだし、野宿するよりはましだろう。」


「ここです。」
 部長たちは、町から少し離れたところにある小屋に案内された。
「中にあるものは自由に使ってください。」
 部長たちが中に入ると少し汚れてはいるものの、いくつかのベッドが
用意されていた。
「あ、ありがとう……。あれ?」
 大ちゃんがお礼を言おうとすると、いつの間にか男の姿は消えていた。


-ズーン、ズーン-

 遠くから近づいて来る音に、部長たちは次々と目を覚ました。
「うーん、なんだ?」
「おい、あれをみろ。」
 誰とはなしに窓の外を見た。すると、巨人がこちらのほうへ向かって
くるのが見えた。ダイちゃんが、
「くそー。やっぱりだまされたんだ。」
 すると大ちゃんが、
「え、じゃあ、最初からそう思ってたの?」
「とにかくやっつけてやる。」
 ダイちゃんは巨大化のポーズをとる。
「駄目かー。まだできない。」
 すると部長が、
「いや、そうじゃない。少しずつ大きくなってる。力が戻り始めてるんじゃ
 ないか?」
 ダイちゃんの背丈は、気が付くと部長より少し高いくらいになっていて、
まだ大きくなり続けている。ダイちゃんは、
「まどろっこしいなぁ。こんなんじゃ敵が来るまでにやられちゃうじゃ
 ないか。」
 部長が、
「うーん、なんとか時間稼ぎをしないといけないかもな。」 

第633話

でも、巨人はすぐに部長たちのいる小屋の前までたどり着いた。
歩く地響きが止まったと思うと、天井がベリべりと音をたてはじめた。
巨人が小屋の屋根をめくり取ろうとしているのだった。
天井は簡単にはがされて、部長たちが上を見上げると
こちらを見下ろす巨人の顔が見えた。
巨人が部長たちを確認すると、後ろの誰かに話しはじめた。
「ほら、やっぱりそうだったぞ。 こいつら夜になっても巨大化してねぇ。
 俺の言ったとおり、この町のことを知らないよそ者だったんだ。」
すると、部長たちが見上げる方にもう一人の巨人の顔が現れた。
「ほんとだ。 今夜は祭りだな。」
よく見ると、巨人はさきほど部長たちを小屋に案内した男だった。
部長が、
「いったいどういうことだ。」
すると巨人が、
「状況がわかってないようだから簡単に説明してやろう。
 この町は呪われた人々が暮らす町だ。」
「呪われた?」
「そうだ、夜になると巨大化して巨人になってしまう呪いをかけられているんだ。」
するとダイちゃんが、
「巨大化できる呪いなら別にいいじゃん。 強くなれるんだし。
 呪われてない人が暮らす町に暴れに行ったりできるじゃん。」
巨人が、
「お前ら何も知らないんだな。 呪われてないやつらの町は、かなり離れている。
 巨人の状態でも半日かかるんだ。
 もし暴れに行って、夜が明けて元に戻ったら無事では帰してもらえないだろう。」
部長が、
「なるほど。 巨大化できても他の町に行けないから意味がないってことか。」
「そうだ。 それどころか、夜になると巨大化してしまうから家の中にはいてられない。
 つまり、外で寝るしかないってことだ。 巨大化できても、生活が不便になるだけだ。」
するともう一人の巨人がニヤッと笑って言った。
「だが、悪いことだけではない。
 たまーに、お前らのような何も知らないやつらが迷い込んでくるからな。
 俺たちはそういうやつらでストレスを発散させてるんだ。」
部長が、
「さっき言ってた、祭りって・・」
「そうだ、お前ら使って町のみんなでまわして遊ぶんだよ。」
そのとき、もう一人の巨人がダイちゃんの異変に気づいた。
「おい、こいつだけさっきよりでかくなってるぞ。」
「なに? ほんとだ。 まさかこいつも呪われてるのか?」
するとダイちゃんが、
「呪われてるんじゃないよ。 これはヒーローが変身してる最中なんだよ!」 

第634話

 部長が、
「よし、もしかしたら大ちゃんも巨大化できるかも。」
「なにっ、まだ他にもいるのか?」
 上から巨人が驚いたように言う。大ちゃんの体がゆっくりと巨大化
し始める。部長が、
「よし、俺たちも頼む。」
 ダイちゃんが部長やグーアやブギヒアを見つめ、巨大化するように
念じた。しかし、部長たちの体は変化しなかった。大ちゃんは、
「困ったなぁ。自分以外は巨大化できないみたい。」
「だったら……。」
「「だめだめだめ!!!」」
 石本の申し出に部長とダイちゃんがほぼ同時に言った。
「自分だけ巨大化したら何をするかわからないからな。」
 部長に続いてダイちゃんも、
「そうだよ。絶対巨大化した町の人と一緒になって何をやるかわからない
 からな。」
「何を言ってるんだ。とにかく、お前たちだけでも来るんだ。」
 巨人はしゃがんで石本や部長たちを次々と捕まえた。
「巨大化が完了したら町の方へへ来い。一緒に遊ばせてやる。」
 そのとき、大ちゃんとダイちゃんは巨人たちの1/4くらいのサイズ
くらいにまでになっていた。
「待てっ。」
 ダイちゃんはそう言って巨人たちを追いかけようとしたが、どんどん
距離が離れていく。大ちゃんが、
「どうしよう。」 

第635話

ダイちゃんは、
「どうせあいつらは町から出られないんだ。 しかも朝になれば元に戻るんだろ。
 僕たちは巨大化が完了してから追いかけよう。」
大ちゃんが、
「でも、捕まったみんなが心配だよー。」
「大丈夫だって。 あいつら遊ぶって言ってただろ。
 そんなすぐには潰したりしないって。」
「うーん・・・」

そしてこちらは部長たちを捕まえた巨人たち。
町に戻ると、他の仲間にこびとを捕まえたことを知らせて回った。
そして町の中央にある広場に集合した。
かなりの広さの広場だが、巨大化した町の住民が30人ほど集まり
狭そうに密集している。
その中心に部長たちを捕まえている巨人がいる。
部長は、
「俺たちどうなるんだ・・? こんな大勢の巨人に弄ばれたら・・・。」
ブギヒアは、
「きっと大丈夫ですよ。 あの2人が助けに来てくれますよ。」 

第636話

     部長たちの心配をよそに巨人たちは、
    「久しぶりだなー。」
    「どうしてやろうか。」
    「俺まで順番回ってくるかなー。」
    「順番はどうする?」
    「早い者勝ちだ。」
    「ちょっと待て、それじゃ……。」
    「待て待て、みんながそう言うだろうと思って、くじを作っておいた。」
    「いんちきはなしだぞ。」
     それを聞いた部長たちは、
    「ふう、くじ引きで順番を決まるまでは何もされずに済みそうだ。」
     石本が、
    「でも、順番が決まったらどうするの?そんなときには……。」
    「お前は黙ってろ!」
     部長が石本の言葉をさえぎった。巨人の一人が、
    「そこ、うるさいぞ。あまりうるさくすると、潰してやる。」
     するともう一人が、
    「なんてこと言うんだ。こびとが減ってしまったら、また順番を
     決めなおしだ。もうこれ以上待てない。」
     そのときである。
    「ああ、何とか着いたみたい……。」
    「よしっ、今から活躍するぞー。」
     大ちゃんとダイちゃんが町の巨人たちの集団、というか集合場所に
    たどり着いたのである。
    「やった。助かった。」
     部長たちの中で誰ともなしに言ったが、すぐそれは失望へと変わった。
    何とか巨大化は完了していたが、まだ町の巨人たちと同じくらいのサイズ
    だったのだ。グーアが、
    「連中と同じサイズじゃ、俺たちを助けることはできない。数なら圧倒的に
     多いし……。」
     そのとき町の巨人たちは、
    「あの二人何者だ?」
    「ああ、また順番決めなおしか……。」
    「遅れてきたんだ。あの二人は一番最後だ。」
    「おい、ちょっと見ろ、あいつら……。」
     大ちゃんとダイちゃんの巨大化はまだ続いていた。ダイちゃんが、
    「さあ、どうしてやろうかな。」
     すでに二人は町の巨人たちの2倍くらいになっていた。

第637話

    ダイちゃんの巨大化が、町の巨人の3倍のサイズで止まった。
    「あれー? これ以上巨大化できない。 まぁいいや、これでも充分勝てそうだし。」
    すると大ちゃんが、
    「たぶんまだ完全に力が戻ったわけじゃないからだね。 僕も止まっちゃった。」
    妙に上の方から大ちゃんの声が聞こえ、不思議に思ったダイちゃんが後ろを振り返った。
    するとダイちゃんの2倍くらいまで巨大化した大ちゃんが立っていた。
    ダイちゃんが、
    「なんでお前の方がでかくなれたんだよー。
     リーダーの方が小さいなんてかっこ悪いじゃないかー。」
    大ちゃんは、
    「そんなこといわれても。 僕にもわからないよー。」
    ダイちゃんが、
    「仕方ないなー。 お前のが大きくても、活躍するのは僕だからね!」
    「うん、わかったよー。」
    町の巨人達は大ちゃん達の方を見ながら騒いでいた。
    「なんなんだよあいつらは。」
    「呪いでこんなに巨大化するやつ見たことないぞ。」
    「まさか俺たちを襲う気じゃないのか?」
    すると中心にいた部長を掴んでいる巨人が言った。
    「静かにしろ! あいつらはこのこびとどもの仲間だ。
     つまり、こいつらを俺たちが持ってる間は何も手出しはできないはずだ。」
    「なるほど。 人質ってわけか。」
    「でも俺たちには時間が・・・」

第638話

     さらに町の巨人たちは、
    「確かにやばい。」
    「戻ったら両方から何されるか……。」
    「お、俺はいやだ。せっかくのおもちゃを……。」
    「でも大きくてもよく見たら子供だし……。」
     大ちゃんとダイちゃんの足元で町の巨人たちは
    (もちろん、二人から見ればこびと)議論していた。すると上の方から
    ダイちゃんが、
    「さあ、僕たちの仲間を放してもらおうか。でないとその後の……。」
     そう言って大ちゃんのほうを指差す。さらに、
    「まあ、そこまでしなくても僕一人でみんなをやっつけてもいいよ。」
     町の巨人たちは、
    「や、やっべー。」
    「近くで見るとめちゃでけー。」
    「どうする……。」
    「落ち着け。」
     するその中の一人、彼はグーアをつかんでいた。
    「俺は絶対いやだかな。」
     そう言って集団の中から一人逃げ出した。ダイちゃんは、
    「こいつらは僕がまとめてやっつけておくから、大ちゃんはさっき
     逃げた奴を追いかけてよ。」
    「わかった。」
     グーアを持って逃げた町の巨人、彼の名はトホン。トホンは町から
    少し離れたところにある洞窟に逃げ込んだ。
    「ここならあいつも入ってこれない。時間切れに近づいたらこのこびとを
     町からはなれた場所において戻ろう。」
     そのときである。トホンの目の前に巨大な手、そう、彼を追っていた
    大ちゃんが洞窟に逃げ込むのを見ていて、手を突っ込んできたのだ。

第639話

    「くそっ、ここに入るのを見られたか。 だが、この洞窟には別の抜け道があったはず。」
    外では大ちゃんが、
    「うーん、確かにこの穴に入っていったんだけど。 けっこう奥が深いな。」
    洞窟の入り口から手を突っ込んで、手探りでトホンを探す。
    手はトホンのすぐ近くまできていたが、中の様子がわからないため
    うまく避けられていた。
    「もしかしてこの洞窟、トンネルみたいにどこかに出口があるのかも。」
    大ちゃんは手を抜いて、別の穴を探し始めた。
    中ではトホンが、
    「よし、今のうちに抜け道を探そう。」
    さっきまで大ちゃんの巨大な手でふさがれていた別の道を行くことにした。
    外では大ちゃんも別の出口を探している。
    「うーん、暗くてわかりにくいなあ。 うわっ!!」

    ズシーーーン

    大ちゃんが足元の岩につまずいて転んでしまった。
    「いたたー。 擦りむいちゃったかも・・」
    大ちゃんはその場に座って足をさすっていた。
    中ではトホンが、
    「何だったんだ、今の地震は。 洞窟が崩れなくてよかった。
     たしかこの先に出口があったはず。」
    だが、さっきまで暗闇の中でうっすら見えていた出口が見当たらない。
    「あれー? やっぱりさっきの地震で出口が崩れたのか?
     いや、崩れる音はしなかったが・・・」
    トホンがふさがっている壁に触れてみた。
    「ん? 岩壁にしてはやわらかいような・・・」
    大ちゃんが足を痛めて座った場所は、偶然トホンが出ようとしていた出口だったのだ。

第640話

    「あれ?なんだろう?」
     大ちゃんは自分の体に何か触っているのを感じた。その直後、無意識に
    体を少し動かした。
    「うぎゃぁぁぁっ!」
     その行為がトホンにとって命取りになってしまった。大ちゃんが
    体を少し動かしたおかげで、目の前のやわらかい壁を出口がないか
    手探りで調べていたら突然壁が動き、反対側の壁に弾き飛ばされて
    しまったのだ。
    「いててて。何だ?これは……。」
     トホンは立ち上がり、
    「動いたな。どういうことなんだ?やはりここからは離れたほうがいいのか?
     待て、前の入り口に戻ったらまだあいつがいるかもしれない。このまま
     待って時間切れになってしまうのも困る。さてどうすれば……。」
     トホンはしばらく考えていたが、手探りでとがった石を探し出した。
    「よし、これで。えいっ!」
     トホンは先ほどとがった石をやわらかい壁に突きたてようとしたが、
    うまく行かなかった。
    「やっぱり何か触ってる。ちょっとちくっとしたような……。」
     大ちゃんはゆっくり立ち上がった。一方、トホンは持っていた石を
    落としてしまったため、仕方なく壁を押してみようとした。しばらくは
    どんなに力を入れてもわずかにへこむだけだったが、突然その壁が
    動き出したため、トホンは前に倒れこんでしまった。
    「いててて、どうなっているんだ……。」
     なんとなく上を見上げたトホンは下を見下ろす大ちゃんと目が合って
    しまった。




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