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2276号室
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第821話


これでお腹の中の自分も助かる、と思っていた石本だが
お腹の中の石本は、もう口まで戻ってこれるような場所にはいなかった。
ダイちゃんを掴んでいる石本が、
「なかなか出てこないな。 もっと揺すってみよう。」
石本3人はダイちゃんを縦に揺さぶり始めた。
ダイちゃんは何か言っているが、1人の石本が口を掴んでるためにしゃべれない。
それでももちろん石本は口から出てこなかった。
「どうしよう。 出てこないよー。」
「早くしないと僕たちも苦しいよ。」
「もうこうなったら力ずくで・・・」
すると大ちゃんが、
「待って。 僕が出してあげるから、ダイちゃんを放してあげて。」
石本たちは、
「大ちゃん、出してくれるの?」
「でもそんなことしたらこのダイちゃんが怒って何するかわからないよ。」
「でもさー、こんなことやってる時点ですでに怒ってそうだよね・・・」
「そんなー、じゃあ放した瞬間何されるかわからないじゃない。」
「やっぱり放すわけにいかないよー」
「でも放さないと大ちゃんに出してもらえないし。」
「どうすればいいのー」 

第822話

 部長は、
「いったい石本は何をやってるんだ……。」
「私が聞いてみる。」
 ベルは大ちゃんにたずねた、大ちゃんは事情をベルに話した。
「ウーむ、なるほど、ここまでして出ないとなると、あの方法くらい
 しか思いつかないが……。」
 大ちゃんは、
「いったいどうするの?」
「石本君には悪いが、ダイちゃんがもし本気で怒ったときのことを考えると
 仕方が無い。」
 そばで話を聞いてた部長が、
「ダイちゃんのことは保障できないが、石本のことは許す、思いっきり
 やってくれ。」


 さて、こちらはダイちゃんのおなかの中の石本、何とか口から脱出
しようと進もうとするがほとんど進むことが出来ない。当然、ダイちゃんの
腸は石本を押し戻そうとする。石本は、
「このまま押し戻されるのはやだよー。」
 何とか逆方向に進もうとするが、ずるずる腸の力で押し戻されている
ような幹事ではなく感じである。そのとき、

-ぐぐっ、ぎゅるぎゅるぎゅる……-

 どこからとも無く、変な音が響いてきた。一方、外では……


「しばらくの辛抱だ。すぐにとても気分がよくなるはずだ。」
 ダイちゃんに話しかけながらベルはダイちゃんのおなかをマッサージして
いたのだ。 

第823話

ダイちゃんを掴んでいる石本たちが、ベルのやってることを見て
「ちょっと何やってるの! そんなことしたらお腹の中の僕が!」
石本たちはベルを止めようとするが、
必死にダイちゃんを捕まえているため手がふさがっていてどうしようもない。
ベルは石本に、
「もう上からは無理だ。 あきらめろ。
 今のうちなら許してもらえる・・・かもしれないぞ。」
石本は、
「許してもらえるわけないよー。 ここまできたらあきらめられない!
 口から出るまで放さない!」
だが、腹の中の石本はベルのマッサージで動きが活発になった腸に押し流されて
どんどん下半身の方に移動する。
そして腹の中の石本が進むにつれて、ダイちゃんを掴んでる石本たちも苦しみ始めた。
「やばいよー、このままじゃほんとに最悪の事態になっちゃうよー。」 

第824話

「どうしよう、どうしよう、どうしよう。」
 石本たちはあせり始めた。
「何かいい方法を考えないと、考えないと。」
 外でダイちゃんを捕まえてる2人、ダイちゃんのおなかの中、と
いうか腸の中を流されてしまった1人、作者もうっかり忘れていた
口を押さえているもう1人、つまり合計4人でよいアイデアを……
考え出せる状態ではなかった。それどころか石本たちはどんどん苦しく
なってついにダイちゃんを放してしまった。

−ドサッ−

「お……おまえら……(怒)」
 起き上がったダイちゃんは石本たちをにらみつけた。石本たちは、
「ごめんなさーい。お願いです。許してください。」
「許すわけないだろ!!今までにないきっつーいお仕置きをしてやるからな
 それだけじゃないぞ、いたた……。」
 ダイちゃんはおなかを押さえて突然うずくまった。するとベルが、
「今のところダイちゃんが怒ってとんでもないことをしでかすことは
 なさそうだ。」
 すると石本たちの1人は、
「おなかの中の僕がとんでもないことになりそうだよー。」
 そのときである。

−ザー、ザー−

 どこからともなく水の流れる音が聞こえてきた。するとダイちゃんは
立ち上がり、
「よし収まった、お仕置きはしっかりするからな。覚えてろよ。」
 石本たちは、
「そんなー。」
「いやだよー。」
 すると部長は、
「石本、とにかくややこしいから今は1人に戻れ。」
 部長に命令され、石本たちは1人にまとまった。そうしているうちに
ダイちゃんは水の音のほうへ向かって走り出した。残った部長たちも
ついていった。


「こ……ここは……。」
 ダイちゃんについていった部長達が驚いたのも無理はない、
巨大な洞窟のような場所に水がたまっていた。いわゆる地底湖である。
どこかはよくわからないが水の音はここに流れ込む水か、流れ出す
水の音だろう。
「アー、気持ちよかった。」
 先に来て地底湖に飛び込んでいたダイちゃんが水の中から顔を出した。
後から追いついた石本は、
「終わった……、何もかも終わったorz」
 するとダイちゃんは、
「今回は特別に許してやるよ。」
 部長が、
「奇跡だ!ダイちゃんがこんなこと言うなんて。」
「ここに飛び込んで出したらものすごく気持ちよかったからな。
 水も冷たくなかったし。その代わり、この先がどうなってるか調べて
 くるんだ。」
 ダイちゃんは今まで自分のおなかの中にいた石本に言った。
幸い水の中に放出されたためきれいに洗われ、サイズも部長たちと
同じに戻されていた。石本は、
「そんなぁ。」
 しかし命令には逆らえず、地底この奥の洞窟へ1人で進んでいった。 

第825話

地底湖の奥の洞窟へ向かった石本は、
「うう。 きれいになったとはいえ、ダイちゃんのあそこからアレと一緒に出てくるなんて・・・。 
 思い出しただけで気持ち悪い・・・。」
そう言いながら進んでいった。
しばらく進むと洞窟がだんだん狭くなってきた。
「これ以上進んで大丈夫かな。 でも命令だし、逆らえないし・・・。」
狭くなっていく洞窟を石本の体が無理やり進んでいく。
でもあるところで完全に進めないほど狭くなってしまった。
「もうこれ以上は進めない。 調べてくるだけだからもう戻ってもいいでしょ。」
それでも体は戻ろうとしない。
まだ命令を果たせてないってことだろう。
「進めないってのに、どう調べろっていうの。」
石本の体は狭い洞窟を掘り出した。
「無理だよ。 手が痛い。 もう戻りたいよー。」 

第826話

 もちろん、そんなことはお構いなしに石本の体はどんどん先へ掘り進んで
いく。石本は泣きそうな声で、
「いやだよー。もうやめたいよー。」
 そうしているうちに何やら向こう側が明るくなってきた。更に回りも
なんとなく広くなってきたようである。石本は、
「何とかもう掘らずにすむかな……。」
 そうしているうちに今度は進む方向が下向きになってきた。
「今度はなんだかこのまま下に落ちそうでこわいなあ……。」

−ズルッ、ゴロゴロゴロ−

 案の定、石本は足を滑らせて下り方向へ転がり落ちてしまった。
石本は、
「いたたた……。」
 その後起き上がって周りを見回すと部屋のような場所にいた。
壁に大きな穴があいていて、先ほど石本が転がり落ちてきた洞窟に
続いているようだった。


 後から来たダイちゃんと部長達が先ほどの部屋に集まるのにそれほど
時間はかからなかった。ベルは、
「こんな部屋があったのか。秘密の地下室か何かかな。」
 部長は、
「なんか以前に似たようなことがあったような……。」
 そのとき、
「ようこそ『選択の部屋』へ」
 気がつくといつの間にか部長たちのすぐ後ろに一人の男が立っていた。
男は、
「私は、この部屋の案内人です。こちらにあるドアから、好きな色を選んで
 進んでください。」
 男がが指差すほうを見ると、赤、青、黄色、緑、白の5色のドアが
並んでいた。ダイちゃんが、
「これ、やっぱりなんかわなとかじゃないか?」
 気がつくと先ほどの男と、なぜか石本が最初に、後からダイちゃんと部長達が
入ってきた部屋の穴が消えていた。部長は、
「うーむ、このドアのどれか1つを開けて進むしかないようだな。」 

第827話

ベルは、
「我々に対する罠にしては、ずいぶん前からあったような感じだが。」
部長は、
「たしかに。 それに罠とはちょっと雰囲気が違うような。 いったい何なんだ?」
すると男は、
「ここは研究用こびとのケージの唯一の出口。
 このドアから無事に出られるのは、正解のドアを知っている研究者だけです。  
 あなたたちは研究者ではないようですね。
 研究材料のみなさんは引き返してケージに戻ることをおすすめします。」
ダイちゃんが、
「誰が研究材料だ! 今すぐ潰されたいの?」
部長がダイちゃんをなだめて、
「まぁまぁ。 そう言えば俺たちをここに閉じ込めたのは
 こびとを研究してマジューイに報告してるやつだったよな。」
ベルが、
「そうだったな。 つまりこの部屋はその研究者の出入り口ってわけか。」
大ちゃんも、
「このドアのどれかがほんとの出口ってことだね。」
部長は男に聞いた、
「おい、正解以外のドアの向こうはどうなってるんだ?」
男は、
「それは言えません。 何度も言いますが、
 正解のドアを知らないのであれば引き返した方がいい。
 私が言えるのはそれくらいです。」
ダイちゃんは、
「引き返したって出られないんだから行くしかないだろ。
 適当に選んで行こうよ。」
大ちゃんは、
「そんな危険すぎるよ。 ハズレの確率の方が高いんだよ。」 

第828話

 するとダイちゃんは、
「そうだ、みんなで同時にこのドアを開けてみようよ。ちょっとだけ覗いて
 外に出られそうなところへ行けばいいじゃん。」
 大ちゃんは、
「ちょっと見ただけで、わかるのかなぁ……。」
 ニショブは、
「意外にいけるかもしれませんよ。」
 部長は、
「5人以上いるし、やってみるか。」
 するとダイちゃんは石本を指差して、
「そ言うときこそ、こいつにやらせりゃいいじゃん。」
「ええーっ。」
 石本は嫌がったが、命令には逆らえない。5人になった石本が同時に
ドアノブに手をかける。すると男は、
「あ、ひとつ言い忘れましたが、同時に2つ以上のドアは開かないように
 なってます。無理にあけようと……。もう、手遅れでしたね。」
 すでに部長たちの姿は消えていた。


 部長が、
「ここはどこだ?」
「外に出られたのかな?」
 大ちゃんに続き石本が、
「うーん、なんだか暗くてよくわからないなぁ。」
 しばらくするとだんだん目が慣れてきた。というより明るくなってきた。
外にいるには間違いがないらしく、夜明け前の雰囲気である。もうしばらく
すれば太陽が昇ってくるだろう。
 ダイちゃんは、
「うまく外へ出られたみたいだな。」
 ベルは、
「確か研究者の出入り口だといっていた。ならば先ほど入ってきたはずの
 ドアが見えない。どこかに転送されたのか。」
 ダイちゃんは、
「向こうから誰か来るみたいだよ。聞いてみたら?」 

第829話

それは巨人でもこびとでもなく、ダイちゃんたちと同じサイズの男だった。
そもそもダイちゃんたちが今巨大なのか縮められたのかもわからないが
とりあえず同じサイズだった。
部長が男に尋ねた。
「すいません、ここはいったいどこなんですか?」
すると男は不思議そうに部長たちを見て言った。
「ここがどこかわからないって、あんたらはどこから来たんだ。」
ダイちゃんが、
「ドアを開けたらここにきたんだ。 外に出れたって事は正解だったんだろ?」
男は困った顔で、
「何言ってるのかよくわからんが。 何者なんだ、あんたらは。」
部長は、
「何者って聞かれてもなあ。
 とにかくここがどこなのか教えてくれるだけでいいんだ。」
男は、
「ここは天国だ。」
部長は、
「ええ! 天国って・・・、俺たち死んだのか?」
ベルは、
「死んだようには思えないが。」
男は、
「ほんとにここのこと何も知らないんだな。
 天国って言っても人工的に作られた天国だ。 一応生きていると言える。」
ニショブは、
「人工的に作られた天国・・・? まだよくわからないな。
 なぜそんなものが作られたんだ。」
男は、
「そこまでは知らないな。 神様にでも聞いてみるんだな。」
部長が、
「神様? 人工的な天国なのに神様がいるのか?」
男が、
「ああ、この天国を管理している御方だ。 ただ、とてつもなく巨大な方だから
 あんたらを見つけられるかどうか。」
ダイちゃんが、
「偽者の天国を管理する巨大な神様か。 なんかすごく怪しいよね。 
 本性を暴いて倒してやろうよ。」
大ちゃんは、
「もう、まだ敵だって決まったわけじゃないのに。」 

第830話

 男が立ち去った後、
「あ、ちょっとこんなときに言いにくいんだけど……。」
 大ちゃんが言う。ダイちゃんは、
「なんだよ。」
 大ちゃんは続けて、
「博士とフテンさんがいなくなっちゃったんだけど……。」
 ダイちゃんは石本に、
「よく考えたらお前を食べたときあたりから忘れていた。」
 石本は、
「なんだか遠まわしに僕のせいにしてない?」
「それなら心配しなくていい。」
 突然うしろから声がした。部長達が振り向くと、自分たちと
同サイズになっていた博士とフテンがいた。博士は、
「うまく説明できないが、気がついたら君たちと同じサイズになって、
 ここにいた。」
 ベルが、
「ところで、これからどうする?さっきの男が言っていた神様でも探すのか?」
 すると部長が、
「神様か……ウーむ、確かに。だがどうやって。」
 ダイちゃんが、
「とてつもなく巨大って言ってたから、すぐに見つかるんじゃない?」
「なるほど、でもそれらしきものは見えないみたいだ。」
 周りを見回した部長がそう言ってた後に回りを確認するが、
やはりはるか遠くにかすんで見える山々しか見えない。ダイちゃんが、
「いくらなんでもその山の……え……?」
 はるか遠くの山の向こうに、更に巨大なものが動くのが見えた。
大ちゃんが、
「もしかして、今見えたの、神様?」 

第831話

部長は、
「そんなまさか。 あの遠くに見える山でさえそうとうな大きさだぞ。
 その山のさらに向こうに見えるのがそうだって言うのか!」
ダイちゃんは、
「とてつもなく巨大なんだし、そうなんでしょ。 別に驚くことじゃないよ。」
大ちゃんは、
「でもダイちゃん。
 もしあれが神様だとしたら、僕たちなんて肉眼で見えないくらい小さいと思うよ。」
ダイちゃんは、
「そのための巨大化能力だろ。 あの山まで遠いし、ここから巨大化して行こう。」
そう言ってダイちゃんは巨大化しようとしたが、体に変化はなかった。
大ちゃんはそれを見て、
「やっぱり巨大化できないんだね。 なんとなく予想はしてたけど。」
部長は、
「巨大化できないとなると大変だぞ。
 まずあの遠くの山に行くまでに何日かかるか・・・」
ベルが、
「何か乗り物でもあればいいんだが。」 

第832話

 そのときである。
「あ、もしもし。お前たち神様のところへ行きたいのか?」
 突然部長たちはうしろから話しかけられた。先ほどここが天国で
あることを教えてくれた男だった。ダイちゃんは、
「なんだよ。まだいたの。」
「ここのことはよくわからないようだったからな。」
 男が言うと部長は、
「どうやって神様のいるところへ行けばいいんだ?」
「あれを見たまえ。」
 男はある方向を指差す。その先には小さな建物。さらにその方向から
何かが聞こえてきた。

ープアー、カタンカタン……−

「何か来るな。」
 ベルが言う。すると大ちゃんが、
「もしかして、あの建物駅じゃない?」
 男は、
「そうだ。あそこから列車に乗って行くといい。忙しいお方だ、2,3日も
 すれはどこかへ行かれるだろう。」
 ダイちゃんは、
「なんだ、それならすぐにでも行けそうだな。」
 すると大ちゃんは、
「でも僕たちここへ来たばかりだし、列車に乗る切符もそれを買う
 お金もないよ。」
 男は、
「それなら心配ない。駅の地下でアルバイトを募集している。切符代くらい
 すぐに稼げるだろう。」
 そう言ってどこかへ立ち去ってしまった。


 部長たちは駅まで行き、そこから地下へ降りる階段を降り始めた。
「いったい、この先には何があるんだ?」
 ニショブが言う。博士は、
「地下鉄にでも乗り換えられるんでしょうか。」
 フテンは、
「何を聞いていたんだ。どっちにしろお金がなければ……。」
 そのとき大ちゃんが、
「あれじゃない?」
 階段の突き当たりにドア、そこには張り紙があり、こう書かれていた。
『アルバイト募集中、すぐ働けます。短期間のみでも可能』


 ドアの向こう側はかなり広い空間だったが、誰もいないようだった。
「すみませーん、アルバイト募集してるって聞いてきたんですけど。」
 部長がいうとしばらくして男が出てきた。ダイちゃんは、
「あ、さっきの……。」
 男は、
「もしかして双子の弟に会ったのかね。弟に聞いてここに来たんだな。」
 部長は、
「上の駅から出る列車の切符代がほしいんです。
 これだけの人数働けますか?」
「それは助かる。人数は多いほうがいい。ここのバイトは給料は高いが、
 みんなすぐにやめてしまう。やる気があるなら今すぐにでも
 働いてもらいたい。」
「で、どういう仕事なんです?」
 部長は更に聞く、双子の兄は、
「この先にいるお客様の相手やお世話をしてもらう。」
 そう言って別のドアを開けた。その先は巨大な空間だった。
「見かけない顔だな。昨日までいた連中は?」
 その先には巨人がいたのだ。双子の兄は、
「やめてしまったが、代わりに優秀な人材を集めてきた。」 

第833話

巨人はじろじろと部長たちを見ながら、
「ほんとに優秀なんだろうな。」
すると双子の兄は、
「試してみればわかるだろ。
 まぁ、ほんとに優秀じゃないと感じたなら潰したっていいんだ。
 そのときは潰し料金いただくけどな。」
部長は、
「おいおい、勝手なこと言うな。 俺たちはきたばかりなんだぞ。
 優秀じゃなければ潰していいとか、どういうことだ。」
双子の兄は、
「まぁまぁ、巨人の言うことに従ってれば潰されないから。」
部長は、
「巨人に従うとか世話するとか、いったい何の仕事なんだ?
 そもそも何で巨人がいるんだ?」
双子の兄は、
「なるほど。 お前たちはこの世界に来たばかりってことか。
 何も知らないんだな。」
部長は、
「そうだ。 天国とか神様とか、この世界はいったい何なんだ。」
双子の兄は、
「お前たちがここに来る前にいた街あるだろ。
 あそこで犯罪犯して死刑判決がくだるとここに送られるんだ。」
ニショブは、
「天国なのに犯罪者が送られる?」
双子の兄は、
「お前らは犯罪者ってわけじゃなさそうだな。
 別の方法でここに来たってことか。」
ベルは、
「ああ、私たちはあの街から脱出しようとして
 いつの間にかここに来てしまっていたんだ。」
双子の兄は、
「そうか、それは気の毒だな。
 この天国に来てしまったやつは、もう帰ることはできない。
 生きているのに死んでるのと変わらない。
 だから天国って呼ばれてるんだ。」
部長は、
「じゃあ、この天国を管理してるとか言う神様って何者なんだ?」
双子の兄は、
「そこまでは知らない。 本人に聞いてくれ。
 ああ、そのために切符代が欲しいってわけか。
 とにかく金が要るんだろ? 早く巨人の部屋に入れ。」
部長たちは半分強引に巨人の待っている広い部屋に押し込まれた。 

広い部屋に押し込まれた。 

第834話

「まあ、お前たち優秀らしいからな、早速やってもらおうか。」
 巨人はそう言って腰を下ろした。

−ズッシーン−

 それだけでもものすごい音と振動がする。部長は、
「な、なんだ、いきなりすわるな。」
 巨人は、
「そのくらいよけてもらわないと困る。まずいな。一人潰したか……
 追加料金取られるな……。」
 巨人が少しお尻をあげると、その下からフテンが這い出してきた。
フテンは、
「ふう……不死身なのがありがたいと思ったのはこれが初めてだな。」
「あ、そうだ。僕たち何をすればいいの?」
 大ちゃんが巨人に尋ねる。巨人は、
「うーん、そうだな。してほしいこといろいろあるが、まずは耳掃除でも
 してもらおうか。」
 そう言って横になった。

−ドドーン−

 再び大きな音と振動。
「道具とかあるのか?」
 ベルが巨人に聞く。
「その辺にあるだろ、適当なものを使え。もし痛くしたら
 潰すかもしれないぞ。残りは足の裏をきれいにしてくれ。」
「ところで誰と誰が耳掃除をする?」
 部長が言うと石本が、
「ハーイ、僕やりまーす。」
「お前が一番危なっかしい。巨人を怒らせてこっちまで大変にな目に
 あったらどうする。」
 巨人が、
「何かまどろっこしいな。俺が選ぶ。とりあえずこいつ以外で……。
 お前見た目の割に丈夫そうだ。」
 そう言って一旦上半身を起こしてフテンをつまみ、もう一方の手で
ベルをつまんだ。
「お前らが耳掃除をやれ。残りは、足の裏だ。」
 巨人はそう言って再び横になった。 

第835話

フテンとベルは横になった巨人の耳の付近に降ろされた。
フテンは、
「耳掃除と言っても、いったいどうすりゃいいんだ。」
ベルも、
「とりあえず、耳垢を取ってやればいいってことだろう。」
巨人の耳の穴は、ちょうどフテンたちが腕を入れられるぐらいの大きさだった。
フテンはとりあえず腕を穴に入れてみた。
穴の中で腕を適当に動かしてみたが、
「こんな感じでいいんだろうか。」
すると巨人が、
「おい、耳掃除するのに道具も使わずに手突っ込んだだけって初心者でもやらないぞ。
 ほんとに優秀なんだろうな。」
ベルは、
「すいません。 耳の状態を手で確かめただけです。
 それで道具を選ぼうかと思いまして。」
何とかごまかそうと適当に言い訳を言った。
巨人は、
「なるほど、優秀だから手で確認してベストな道具を決めるってわけか。
 だが俺はこれでやってもらうのが一番好きなんだ。 これでやってくれ。」
巨人はフテンたちの近くに道具を1つ置いた。
フテンたちの身長ほどある長い棒の先に固めた綿がくっ付いている。
まるで巨大な綿棒だ。
ベルがその棒を持って耳の穴にそっと入れていく。
「慎重にやらないとな。 もし巨人が少しでも痛がったらやばいぞ。」 

第836話

 さて、こちらは巨人の足の裏付近……
「なんか耳掃除のほうもちょっともめたみたいだな。」
 部長が言う。ダイちゃんが、
「こっちはこっちでなんとかなるんじゃない?それにしても……臭っ!!」
 大ちゃんが、
「よじ登るだけでも大変そうだね。」
「心配するなよ。こっちにはこいつがいるし。たまには役に立ってもらわないと。」
 石本を見ながらダイちゃんが言う。石本は当然、
「ええーっ、いやだよー。道具も何を使っていいかわからないし……。」
「なんだよ。道具ならちゃんと見つけてあるよ。足の裏といったら
 これに決まってるだろ。」
 ダイちゃんはどこからか、軽石を大きくしたような道具を持ってきていた。
「えエーっ、一人でやるの?」
 石本が言うとダイちゃんは、
「もちろん、一人でとはいわないよ。
 いつものように分裂すればいいだけだから。と、
 いうわけで適当に増えてやっておいてよ。」
 ダイちゃんがそういうと道具を渡された石本は分裂を始めた。
それを見たダイちゃんは、
「道具を持ったままだと道具も分裂して増えるとは、今まで気づかなかった。」
 分裂した石本は横に並び、巨人の足の幅くらいになった。
更に分裂した石本が上に乗り、こうして巨人の足の裏全体を石本は掃除し始めた。
巨人は、
「足元はよく見えないが、うまくやっているみたいだな。」 

第837話

石本たちは口々に文句を言いながらも、命令だから逆らえず
巨人の足の裏の掃除を続ける。
「こんなの動物園の象を洗うより大変だよ。」
「こういう嫌なことばっかりやらせるなんてひどいよー。」
「他のみんなも手伝ってよー。」
でもダイちゃんは、
「お前たちだけで手が足りてるんだから、手伝う必要ないだろ。」
しばらく掃除を続けていると巨人が、
「よし、足の裏はもいい。 もう少し上のほうを頼む。」
そして、ダイちゃんはまた石本に命令する。
「足首の辺りに移動しろ。」
石本たちは当然逆らうこともできず巨人の足首に移動する。
「もしかして、このままじわじわ上に移動させて、
 最終的に体全部掃除させる気だったり・・・」
「そんなの僕だけじゃ無理だよ。」 

第838話

「はいはい。人数が足りないのなら分裂すればいいじゃん。」
 ダイちゃんが言うと、石本は分裂して数を増やし、巨人の足首を
洗い始めた。

 一方、フテンとベルの耳掃除組。ベルが、
「ふう、何とか無事終わったみたいだな……。」
 巨人は、
「ウーむ、なんだが遅い割に雑だったような気がするが、まあいい。
 急用を思い出したんだ。久しぶりに全身を掃除してもらいたかったが
 今から全員で一箇所を集中してやってくれ。」
 足元近くの石本たちとダイちゃんと大ちゃんにももちろん聞こえていた。
ダイちゃんは石本たちに、
「よかったな。全身洗わなくて済みそうだよ。」
 すると大ちゃんは、
「でも全員でするんだから僕たちも参加しないとダメだよ。」
 別の場所を掃除していた部長も、
「いったいどこを……。」
 石本たちは、
「変なところだったらいやだな。」
 巨人は、
「白髪を抜いてもらおうか。時間がないから急いでくれ。もたもたしてたら
 潰すからな。」
 巨人の髪は多く、ふさふさだったが、よく見ると確かに白髪がある。部長は、
「抜くにしても一本一本が長くて大変そうだ。」
 巨人は、
「なんだか頭もこのごろむずむずするんだ。とにかく早くしてくれ。」 

第839話

巨人は座った状態で部長たち全員を両手ですくい上げて、頭に乗せた。
「人数多いんだから、すぐに終わらせないと潰すからな。」
部長たちは急いで髪をかき分けながら白髪を捜し始めた。
しばらくすると大ちゃんが、
「あった! 誰か手伝ってー」
巨人の白髪は長いうえに太くてしっかり根付いている。
小さな今の大ちゃんたちのサイズでは1人で引き抜くのは無理だった。
部長が大ちゃんの方に向かった。
「よし、せーので引き抜くぞ。 せーの!」
それでも白髪は抜けなかった。
部長は、
「おーい、石本。 こっち手伝え。」
すると石本が数人集まってきた。
さすがに人数が多いだけあって、頑丈な白髪が抜けた。
ダイちゃんは、
「なんだ、この方法なら楽に抜けるじゃん。 石本、白髪全部抜けよー。」
石本は命令に逆らえず、体がかってに白髪を捜して抜いていく。
「足洗った直後で疲れてるのにー! ダイちゃんたちは楽ばっかりしてずるいよー。」
部長は、
「それにしても、この巨人は何かあわててるようだがどうしたんだろうな。」
ベルも、
「急用を思い出したとか言ってたな。」
すると巨人がそれを聞き取って話してきた。
「今日は近くに天使が来る日だったんだ。 すっかり忘れていた。
 天使に気に入られれば、ここから出るチャンスもあるからな。」
部長が、
「ここから出るチャンス? さっき、この世界からは絶対出られないって聞いたぞ。」
巨人は、
「それはお前らみたいな最小族どもだけだ。 そのくらい知ってるだろ。
 しゃべってないで早く終わらせろ。」 

第840話

 石本たちは巨人の白髪を抜きながら、
「ああ……早く終わらせて神様のところへ行きたい……。というか
 バイト代で切符買って……、列車に乗っている間は休めるから……。」
 するとダイちゃんは巨人には聞こえない小声で、
「何聞いてたの?天使のところに行くに決まってるジャン。」
 石本たちが騒ぎ始めたがその直後にダイちゃんの、
「静かに!」
 という命令で石本たちは何も言えなくなった。部長も小声で、
「ところで天使に会うとしてどうやって行く?こいつについていくとしても
 まさかそのまま髪の毛の中に全員残るわけにも行かないだろう。」
 そのとき巨人が、
「なんだかスピードが遅くなってないか?急いでるんだぞ。」
 しかしそのときは石本たちによってほぼ作業は終わりかけていた。


 そして部長たちの作業終了後(最後のほうはほぼ石本たちだけがやって
いたのだが)、双子の兄は、
「いや、初めてなのに全員無事に終わるとは奇跡だな。この間来た連中は
 ほぼ全滅しかかっていたけどな。ははは……。」
 フテンは、
「笑いながら言うな。全員私みたいに不死身じゃないんだぞ。」
 ダイちゃんは、
「ところでさっきの巨人、まだいるよね。」
 すると石本は、
「急いでいるって言ってたし、もう帰ったんじゃ。早くバイト代
 もらって……。」
 双子の兄は、
「隣の部屋にまだいるはずだ。何か用事でもあるのか?」
 部長は、
「なんかその、気に入ってくれてたみたいだから、挨拶くらいは
 しておこうと。」
 双子の兄は、
「いまどきの連中にしては珍しくいい心がけだな。あの向こうにある
 ドアからいけるから。部屋とはいっもここと同じくらい……
 もう行ってしまったか。」


 隣の部屋といってもそこへ行くには部長たちにとってはかなりの
距離だった。部屋にたどり着くと、先ほどの巨人が服を着て、ここから
出る準備をしていた。 




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